トラブル




2005 年 3 月 27 日(日)
御前崎菊川河口
晴れ
Sail:CORE 5.3(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 255



 ――菊川プールサイドの駐車場は空っぽだった。


 いくら夜中とはいえ、土日ともイワモトの西風予報で五つ星がついていたのにだ。もしかしたらおれが単に勘違いして来てしまったのではないか。もう一度、ネットに接続して確認しようにも、先週、Air-Hのカードを紛失してしまっていて接続できない。
 つらいところだ。
 朝になってもなかなか起きられなかったのはいつものことだった。けれど聞こえてくる物音から判断してもあまり吹いているようにも思えなかった。何度か、眠りから浮き沈みしてようやく旗竿にワイヤーの当たる音が途切れなく聞こえはじめていることに気づき、起きる気になる。
 十一時だった。
 駐車場には車は少くめずらしく半分ほどしか埋まってなかった。海を見ると、セイリングするのに十分なほど、吹いているのだが。ただ、波はない。本当にない。ここまでないのは今シーズンはじめてかもしれない。今日は大潮らしく――そういえば、満月だった――かなり汐も引いてしまっていた。そのせいもあるのだろう。
 風向きは昨日のチェック通り、西南西。右からのサイドンだった。クロスオンにかぎりなく近い。
 NG ACP 255を準備し、5.3を張ってセミドライに着替え、浜へ出た。
 気温は春めき、暖かった。グローブが必要ないほどだ。
 ちょうど十二時のサイレンを聞きながら海にはいった。さすがに水は冷たかったが、ビーチスタートしてフィンをこすってしまうかと思うほど浅くなっているところをプレーニングで抜けてすねの波でジャンプする。それで気分を良くしてもう一発ジャンプして沖へと出ていく。
 アウトの風はジャストからややオーバーという感じ。
 インはややアンダー。
 沈したときにブームの位置を少し低くした。セイルが重く感じられるので、二、三往復してからダウンとアウトを調整した。小波でオンがかっているコンディションということもあってバックサイドを狙う。すね程度の波で思い切り板を返したら勢い余って空中に飛び出してしまった。エアといえば、エア。そこからさらにフロントに振ってみたが、スピードもなくどうしようもなかった。アンダーなので風の力に頼れるわけでもなく、波も同じだ。へろへろのフロントライディングだった。
 浮力のない板でも結構、乗れるようになったもんだ、と自賛していたが、いつもよりも上りがとれずに、排水口と菊川の河口の間で乗る。気まぐれでフロントにふると、あっという間に河口あたりへ行ってしまう。
 河口あたりはさすがに、多少なりとも波が立っていた。一本、フロントで突込む。ボトムターン。腰腹ぐらいのサイズの波へと戻るライン。波の斜面を吸い上げられるように上る。いいタイミングで波は掘れてきていた。リップにあてこめるかも――と思った瞬間、セイルに違和感。裏風が入る寸前の感覚。やばい。今、板を返さないとやばい。
 祈ってしまった。
 裏風よ、入るな、と。
 次の瞬間、裏風を喰らい、巻いていく波の斜面をうしろに叩きつけられる。
 巻かれた。


 河口あたりは波が立っているとはいえ、次々に波があるのでぐしゃぐしゃしている。そこからウォーターなり、ビーチスタートでリカバリーするのは結構、事だった。風が抜けぎみな上、板に浮力がないのでそれに頼ることもできない。
 なんとか、アウトまで出て必死に上がったのに、わずかばかりしか、風上に上れてなかった。フロントにふるとその貯金など、一発でなくなってしまう。
 何度目かにまた、腰腹の波とタイミングが合う。
 波の斜面を下ってフロントへボトムターン。遠い、と思ったが、波まで届いた。波の斜面を上っている途中で、また、セイルに裏風の入る寸前の感覚。反応できなかった。まったく同じパターンで転倒して沈して波に巻かれた。
 ビーチに上がってしばし反省した。
 そのあと、風はかなりきつめになってきた。このまま、がんがん風が上がってしまうのではないか、とビビるが、そこまでは上がらず。きつめのオーバーという感じだった。


 遅い昼食にする。
 ぼんやりと駐車場でひなたぼっこをしながらバナナを食べた。
 暖い。
 春だった。
 海に戻ると風は落ちてきていた。河口よりのビーチまで歩き、ブームのインジョーを締め直す。緩んでいたのだ。浮力のある板を出すべきかな、と思ったが、試みにNG ACP 255 + 5.3 の組み合わせで海へ出てみた。タイミングがよかっただけなのかもしれない。ブローをつかんで一気に加速して波を越え、アウトへ。沖へラインを延す。そのとき、バンッ、とセイルが大きな音をたてた。
 ――何だ?
 あわててセイルに視線を走らせるが、異常は感じられなかった。
 インジョーの締め直したとき、セイルの一部を噛んでしまっていたのかもしれない。
 満ち潮になったのか、少しばかり風上側でも波が立ってきているように見えた。
 それもあって風上に戻るつもりだった。が、二、三度、うねりを越えるときにフィンをスピンアウトさせてしまう。インへ戻るラインで(自分の中では)ぎりぎりの上りをとるが、ほぼ元の場所に戻れただけだった。
 それから五、六往復したが、元の場所からも落ちはじめた。フィンがやたらと抜けるのも一因だった。
 だめだなぁ。
 ちゃんとプレーニングしているのに NG ACP 255で上っていけないというのははじめてのような気がする。255 は 260 よりも上れるのに。
 疲れたこともあってビーチに上がる。
 波打ち際で道具を抱え上げた。セイルのアウトが緩んでいた。
 ――原因はこれか。
 道理でフィンが抜けたわけだ。
 アウトを引き直してみたが、まだ、緩いような気がした。
 ブームのアジャスタをひとつ、延した。そのとき、アジャスタを緩めたとき、ばんっ、とブームが延びた。どうやら右と左のアジャスタの位置が同じになってなかったようだ。少し変だな、とは思ったが、あまり気にしなかった。
 気にするべきだった。


 風が落ちてきていたのに、アウトテンションを強くするという逆の対応をしてしまった。そのため、ビーチスタートに嵌る。やはりだめだ、とあきらめるまで波に巻かれつづける。ついには河口を越えて千浜側へ行ってしまった。
 そこでようやくあきらめた。
 ブームのアジャスタをひとつ、元に戻した。
 道具を引いて風上へ戻るには、河口の海底が掘れていてちょっときつかった。
 何度か、ビーチスタートに失敗した。
 どうする?
 オンがかっているので波越えで下に落とされやすい。迷った。ここでさらに流された千浜まで行ってしまう。風も落ちてきていて沖で沈したら最後、まちがいなく千浜行きは決定だ。気合いをいれた。ビーチスタートし、波を越えて越えた。アウトに出た。あとは沖へラインを延しながら上りをとる。それだけだ。
 バンッ、とセイルが大きな音をたてた。
 ――あっ。
 状況がわかった。なんてことだ。ブームのアジャスタが壊れている。おそらくストッパーの爪が折れている。セイルが音をたてたのは、ブームが急に縮んだからだ。
 セイルがゆるゆるになってしまったため、プレーニングしていられなかった。
 沈してブームをチェックしてみると、やはり、だった。左右のブームの長さがちがっていた。片方だけが2ノッチは縮んでしまっていた。しかもストッパーが噛んでいるのか、腕の力だけでは回すことができなかった。
 昼食後にセイルが音を立てたあのときもブームが(片方だけ)縮んでいたのだろう。


 その瞬間、風上へ戻ることをあきらめた。


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Takehiro Yamada