高速ジャイブ




2004 年 6 月 27 日(日)
本栖湖FUNビーチ
薄曇り
Sail:Expression 6.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260



 ――質問。
 ジャイブのとき、何が見えますか?


 眠くてしかたがない。昨日も一日、寝て過ごしたというのに、今日もなかなか起き上がれなかった。起きた時間を見て、一瞬、今日、ウィンドサーフィンに行くのはやめようか、と思ったほどだった。天気図や、アメダスをチェックして本当にやめようか、と思った。どこも吹きそうにない。可能性があるのは唯一、本栖湖ぐらいだが、浩庵荘のホームページを見て昨日、吹いてないことを知ってかなり迷う。
 今日一日、寝て過ごす。
 魅力だ。
 けれど今の疲労は大部分はストレス性のような気がする。
 ストレス解消にはやはりウィンドか……昔はそんな不純なこと、考えなかったのだが。
 めっきりストレスに弱くなった四十三の男だ。


 それでも大藪春彦が存命中はまだ、よかった。


 曇り空の下、本栖湖へ向かう。
 天候のせいだろう。すれちがう車が多い。途中、多少の渋滞はあったものの概ね、順調な行路だった。鳴沢あたりで晴れ間がではじめた。I田さんよりメールがくる――発信時刻を見ると、一時間前に発信されたものだった。道志街道では携帯の電波は届かない。そのため、メールサーバーに滞留していたのだろう。
 どうやら風はそれなりに吹いているらしい。風向きが南東というのが、いまいちだが。
 二時寸前に到着。あまり吹いていなかった。
 先週、通過した台風の影響でビーチの地形がかわってしまっていた。
 ちょうどビーチ際にいたI田さんとM木さんと話をしながら湖上をチェックしていたら白波が見えるブローがはいってきた。


 本栖湖に来ている人数がそれほど多くなかったおかげで車はFUNビーチ寄りに停めることができた。ちょうど獣道を抜けて湖にでれる所だ。ところがその獣道は欝蒼とした雑草に埋められかけていた。虫も多く、草刈したい気持ちになりながらウィンドの道具を湖岸にだしてセッティングした。
 ウェットはショートジョンだ。
 出艇。
 ちょっとハーネスが前ぎみだな、と思いつつ、強引に下らせてプレーニングに入る。風上側にブローが見えるが幅が狭く、小さい。それにぼくのいるあたりはブローが拡散してしまって消えてしまうことも多い。一往復で岸に戻ってハーネスラインの位置を調整してブームをちょっと下げて再出艇。
 I田さんに指摘されたUっちー病を気にしながら乗るが、それでもやはり、少し風下に落ちぎみだ。スタボーはやはり上りが悪いような感じ。ポートは乗りづらい。これはどうやら風が足りないのに、上らせようとしていたからのようだ。


 それにしてもどうしてだか知らないが、南東のときは本栖湖はドラゴン側の方が風の入りがいい。特にFUNビーチとドラゴンビーチとの間のエリアがかなりの強風になることもしばしばだ。
 今日もそうなっていた――そのエリアへ無風エリアをこえて突っ込む。オーバーセイルに悲鳴を上げそうになりながら一往復して離脱。ハーネスの位置を再調整し、アウトは逆に緩めて(これは強風対策ではなく、途中の無風対策)、意識的に立ちぎみのフォームで再突入した。
 ブローに、一瞬、板が走り出さない。横滑りしている。ノーズが風上に向きすぎていた。普段の感覚よりも風が東にふれている。パンピングして前にふっ飛びそうになりながらもプレーニングにはいる。
 踝大のチョップをがんがん越えながら一気にモグランの航路あたりまで走り切る。ふと見ると、ポリタンク(?)をつかったマークがある。モグランの航路を示しているのかもしれない。いずれにしてもそのあたりはやや浅くなっているのだろう。
 ジャイブしてFUNビーチへ向かって走る。
 無風エリアの手前でジャイブしてふたたび、モグランの航路方面へ。そして、ジャイブ。あまり高さがとれてない――ふたたび、FUNビーチへ向かう。ブローが叩きつけてきた。オーバーセイルだ。リミットの走りはさすがに怖くてできなかった。中途半端なフォームで走るが、それでもそこそこのスピードがでていた。ふっ飛んだら死ぬな。
 うしろをふりかえった。
 十メートルほど後方をついてくるセイラーがひとり。
 バーレーのヘブンに乗っていることがわかった。さすがにあんな幅広ボードのヘブンについてこられては恥だ。それでも突き離れない。無風エリアにタイミングよくはいっていたブローを拾って抜ける。ヘブンも同じ距離をついてくる。くそっ。リミットモードに切り換える。加速。速い。うしろを向く余裕を失う。
 FUNビーチ前の水域にもブローがはいってきていた。
 モグラン航路あたりからほとんどフルプレーニングでやってきたことになる。本栖湖でこのロングランはめずらしい。タイミングもよかった。
 FUNビーチの風上あたり――一瞬、まわりを見回して無人を確かめたあと、フルスピードのまま、ジャイブにはいった。うしろのフットストラップから足を抜いて置きかえる。スピードがでているという意識があったせいだろう。思わず、深く置きすぎた。指先が風下側のエッジからでてしまう。カーヴィング。引きこんだセイルに手応えがない。オーバーシートの状態で一気に回っていった――はず。
 というのも、記憶が残ってないのだ。
 あるのはホワイトアウトした一瞬の視界と手応えのないセイルの感蝕。そして、前足のストラップを抜こうとしたときの引っかかった感蝕だ。やばいっ。が、次の瞬間、足はステップでき、セイルは返せていた。やや後傾になったのを感じて足元に目をやり、ジョイントから離れた位置に前足を置いていたことに気づいた。もう少し前がベストだったな、と思いつつ、走り出した。
 ジャイブのとき、音は捨象されてしまうが、視界もなくなることがある。
 目を閉じているわけではないはずだ。
 おそらく記憶に残ってないだけなのだと思う。脳は情報を処理しているのだろうが、保存しておくだけの余裕がないのだろう。まぁ、これはぼくの脳みその処理速度が他人より劣っているだけなのかもしれないが。
 いずれにしても記憶が断片化してしまうほどのジャイブはひさしぶりだった。
 板をスラロームからフリースタイルウェイブに換えてからは艇速がちがうため、とんとなかったのが。


 そのあと、しばらくセイリングして食事をするため、休んでいるうちに風はなくなってしまった。I田さんとM木さんが微風セイリングをしているのを見ているうちに、ちょっと出てみようかな、と思ったのが、まちがいだった。
 完全に風はなくなり、途中から泳いで帰ってくる羽目になってしまった。


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Takehiro Yamada