
主義に反する雨のウィンド
2004 年 5 月 23 日(日)
本栖湖FUNビーチ
雨
Sail:Expression 6.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260
道志街道にはいったあたりで雨が激しくなってきた。
今日一日は保つと思っていたのだが――これだと本栖湖は吹かないかもしれない。唯一の希望は本栖湖周辺が晴れている可能性があることだ。今まで何度もあった。けれど今回はだめな予感がした。
山中湖あたりでも雨が降っていた。
家を出たころは東ベースの風が吹いていた。
二個の低気圧が日本列島を狭んで相対し、太平洋側の低気圧は前線を引きつれている。前線に吹く風で北東風が東にねじれているのは了解だ。気温も低い。冷い雨が降りしきる。風はない。本栖湖が吹いている可能性も低い。行楽客も早目に引き上げはじめているらしく、対向を行く車はけっこうな数になる。
本栖湖湖畔でひとり車で昼寝でもしてから帰ることになるだろう。
西湖への右折する交差点で、見覚えのある車が対向にいた。
I田さんの車だ。
クラクションを一瞬、鳴らして合図してすれちがう。昨日、乗れているのでI田さんはがっついていないのだろう。もうひとり昨日から本栖湖入りしていたTも帰ってしまっているかもしれない。本栖湖に近づくにつれて木々がわずかだが、揺れはじめている。
本栖湖にも陰鬱な雨が降りしきっていた。
NWAのフリースタイルの大会は風待ちで待機していた。
元競艇練習場の方へ行くと、Tのハイエースが停まっていた。ハッチバックを開いて後部に立ったTに声をかけると、Tはこまった顔でいった。
「なんで来たの? 今日はだめだって電話、入れたのに」
だれに電話したか、知らないが、少なくともぼくはそんな電話は受けていない。
湖を見ると、レギュラーとは逆の真東の風が入っていた。
これはだめだ。
買ってきた菓子パンを食ったりして時間を潰しているうちに風向きがかわった。いつもの南系の風になる。雨も小雨になったような気がする。フリースタイルの大会参加選手たちなのだろう。さっそく出艇してフリースタイルの練習を開始した。
ブローはそれなりにはいりはじめた。
雨の日はウィンドをしない――そう決めていたが、気まぐれが起きた。
Tに出ないのか、とたずねると、修理をはじめてしまったので、という。
ぼくは保温性のなくなったドライスーツ着替えてセッティング。本栖湖の湖面には白波がたち、かなりブローも安定した。大会もはじまったのか、リョーツプロのDJが聞こえる。
セッティングを終え、出艇しようとしたところで立ちすくんでしまった。
ブローが消えていた。ほんの三十分ほどで終ってしまったらしい。
それでも時折、やってくるブローがある。
大会はそのブローをつかんで技をきめるのが、勝敗をわけていることだろう――そんなことは関係ない。問題なのは一番、風のはいりのいいFUNビーチ前の湖面が使えないことだった。
出艇した。
ほとんどプレーニングしなかった。何本か、ブローに当たってプレーニングしたが、上りをとってジャイブをできるほどはつづかない。タック。あるいは沈してセイルアップをくりかえす。そうこうしているうちに、大会は終盤らしかった。ブローがきた。それをつかんでプレーニングして沖へラインを延ばす。すとんと風が落ちた。今日のパターンではこのあと、東にふれた風がはいって上っていけるはずだった。が、それがこない。いきなり西にふれた風になった。出艇したビーチにたいしてクロスオフショアの風だ。やばい。顔が青くなる。がんがんプレーニングさせて上れる風ではない。ガスティで弱い。けれど風向きが悪い――一歩、まちがうと戻れなくなる。
大会の最中に一般セイラーが流される、という記事が頭を過る。
沈とセイルアップをくりかえす。とにかく突端にでもたどりついてもいいから、とセイリング。運良くブローがはいってきてプレーニングして上らせ、なんとか、桟橋あたりに着岸。ちょうどTの車が見えた。おれが流されても気づいてくれないよなー、と思いつつ。
案の定、Tは車の中で一生懸命、修理をしていた。
声をかけると、ドライスーツを着たぼくに驚いた顔をしていった。
「えっ、でてたの?」
そのとき、轟々と風が行きすぎた。
ブローがはいってきた。見ると、セッティングしていた頃ぐらいの風がはいってきていた。
でねーの? とたずねると迷った顔をしている。
とにかくぼくに出てよ、というので――流されそうになったショックが癒えないまま、湖岸へ。風ははいっている。白波が次々と発生しては押しよせてくる。
膝ぐらいまで水にはいって道具を風上に運んだ。
その途中で鋭いものを左足で踏んでしまい、痛みによろめく。それでも歩く気をなくし、そこでビーチスタートした。きつめのブロー。一発でプレーニング。左足の裏がちくりと痛んだ。あれ、切ったのかな、と思ってフットストラップにいれた足を見た。横波がデッキの上を流れている。それにまじって血がはっきりとすじになって流れていた。ヨードチンキをひっくり返してしまったようだ。
鮫がいたら一発でシャークアタックを受けている。
あわててタックに失敗し、セイルアップして帰路――あいかわらず血はだらだらと帯になっていた。
跛をひいてTのところまで行き、テッシュとガムテープを貸してもらう。
出血をおさえようと、Tがシートで足首を縛ろうとしたので、やめさせる――その善意の行動はまちがいだということを納得させるのに苦労する。出血がひどいとき、心臓に近いところを縛るという救急処置がまちがいであるということを――出血がひどいというのは動脈を傷つけたような怪我だということを。
静脈ぐらいの傷だと縛ると逆に出血が激しくなるのだ。採血のときのことを考えてみれば、わかる。
が、わかってもらえない――それでもぼくが必死でやめさせようとするので、ようやくやめてくれる。正直、ほっとした。昔一度、足の裏を切ったときに足首を縛って、噴水状態になった出血に蒼ざめて病院に駆けこんだことがあるのだ。馬鹿っ、と医者にいわれた。縛るから出血がひどくなったのだ、と。
そのとき、教わったのは傷口を圧えろということだった。
その通りにテッシュを傷口にあてガムテープで巻いてもらう。
一安心した。
Tは充分、納得してなかったようだが。
一番、がっくりきたのはぼくなのだ――一番、吹いている時期をまた、逃してしまった。
吹いているのを見てTも出艇してみたくなったらしい。ボードをだしたところで試しにぼくの道具のセイルを貸してくれ、という。怪我をしてしまったので、また、すぐに出艇する気力はない。なんなら1セットを、というと、Tはぼくの道具で湖に出た。
何往復か、した。走り出しに苦労していた。セイルのフォルムを見てアウトを引きすぎていることがわかった。
戻ってきたTが、ぼくがいつも苦労しているのがわかったような気がする、という。
板だけTのカスタムスラロームにかえてTが乗りくらべてみる。結局、セイルのアウトをかなり緩める。それでTは納得――そのフォルムを見てこっちはこっちでショックを受ける。フォルムがほとんど、レースセイルのようになってしまったからだ。ここまでかえられるということにショックを受けた。
そして、やはり NG 260 の方がノーズが上下動している。これはロッカーのせいだろう。チョップの影響を受けやすいのだろう。
そのあと、NG 260 にセイルを戻して乗る。ぼくが乗ってほとんど初心者のように苦しむ――むちゃくちゃ乗りづらい。セイルが緩すぎる。Tに確認してもらうとアウトが緩んでしまっているという。
試行錯誤の末、やはりアウトを絞めぎみにする。
それにしてもブームの高さもハーネスの長さもTとは全然、ちがうということがわかる――低くすぎ、長すぎというのがTの感想だった。ハーネスに完全に体重があずけられない、と。身長はそんなに変わらないのだ。考えられる原因は足の長さではないか?
板はTは気に入ったらしい。
最後のぼくが出艇したが、風はなくなってきてしまっていた。
つまらないのでひょいとヘリタックをしてみた。あっさりとできた。なんだ、簡単じゃん――それより思ったよりもヘリタックがおもしろいことに気づいた。裏風をいれた瞬間、ノーズが横滑りし、板全体が後退する。その感覚が奇妙でおもしろい。
逆サイドをやってみた。こちらはセイルの返しで失敗。
しかし、板の横滑りする感覚はやはりおもしろかった。
【同月同日】
知り合い関係 面識はないけれど……
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Takehiro Yamada