ハイ・アンド・ロー




2004 年 3 月 7 日(日)
御前崎菊川河口
晴れ
ZONE 4.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260



「海がクローズすると予想しての寝坊ですか!」
 そうのたまったのはT橋くんだ。
 今回はT田さん発案の総勢6名での御前崎ツアーだった。一泊コースだ。早々と遠州灘入りしていたT橋くんから連絡があり、まだ、家、というぼくの答えに唖然としてのセリフだった。
 とんでもない強風で海はクローズ状態で、ひなまつりカップも中止だという。
 たしかに超ハードコンディションになるだろうな、とは予想でしていたが――イワモトのGPVがとんでもない数値だった――クローズまでは考えてなかった。正真正銘の寝坊だった。
 というわけで昨日、海に出たのはT橋くんとTのふたりだけだった。
 わざわざ昨日、海に出なくても今日は吹く――そういう予想気圧配置だったのだ。
 菊川のプール脇の駐車場についたときのは十時をまわっていた。
 そこで瀬Gさんと合流。
 駐車場は満車に近かった。
 今回のツアーのメンツは女性ふたり(見学)と男性四人――T田さん、T、T橋くん、それにぼく。なんだ、男性陣はぼくをのぞいて「T」がつく。


 風はあった。
 それでも出艇しているセイラーはまだ数人というところ。
 セイルサイズに迷う。予想天気図から今日は4.7m2はいける、という感じなのだが、まだ、そこまでの風はない。5 の後半というところか。迷い、うだうだしているうちに、風が落ちてしまう。沖合いの風もなくなってしまっていた。
 T田さんが 4.7 をセットして海に出たが、軽量級のT田さんですら走り出せないコンディションだった。
 海上保安庁の天気概況を聞いてみると、十時には西風だった伊豆が、無風になっていた。やばいなぁ。北東風に西風がふん詰っているらしい。
 何度も海へ様子を見にいっていると、そこへクアトロのカスタムを買ったというS田さんがあらわれた。
「あれ? 吹いてないんですか」
 昨日、S田さんは鎌倉で乗っていたのだという。
 駐車場では瀬Gさんがセイルを片付けていた。聞いてみると、シーガルの仲間の待つ弁財天へ移動するのだという。弁財天は吹いているというのだ。すると、ウェイティングしていたひなまつりカップも沖合いを風が近づいてきているということでヒートが開始されそうだとT橋くんの情報網から情報がはいる。
 気づくと、駐車場を囲う木々がざわめきはじめていた。
 T田さんが海へ向かう。それを太平洋岸自転車道の土手から見ていた。ビーチスタート。そして、アウトヘと向かっていく。波とミートしてジャンプ。ゲッティングアウトしてしまうまで都合三回ジャンプするのを見た。
 そこまで見届けたところで、駐車場へ戻る。途中、セイルを運ぶTとすれちがう。5.3か、4.7かで張るセイルを迷う。4.7をチョイスした。T橋くんも5.6から4.7へセイルを張り直している。


 ウェットへ着替え、セイルをかついであらかじめ、運んでおいた二枚のNG――255と260のところへ。躊躇なく、ボリュームのある260にセットする。嫌な感じだった。風がまた落ちてきている。
 海へ入る。
 ビーチスタートし、板の浮力にまかせてアウトを目指す。途中、何度か、沈し、よたよたしながらもなんとか、アウトへ。アウトには充分な風があった。両足をフットストラップにいれてプレーニング。両手が痛いほどかじかむ。寒い。ジャイブに失敗して沈したところで両手のグローブを装着してウォーター。帰路。ところが、途中まできたところで失速。沈。風がなくなってしまった。ウォーターすらできない。かなり沖合いにでていたので、半端じゃなく流されてしまうそうだ。ぎりぎり河口あたりに到着する感じだ。出艇していきなり流されるとは――ぼくらしいと苦笑するしかなかった。
 風がないせいで波はきれいなフェイスを保っていた。
 インサイド。
 ワン・ブローでウォータースタートして海上へ。
 うしろから波が追いかけてくる。腰胸というサイズ。波に押され、板が加速する。置いてきぼりをくわないように、前に体重をかけた。波の上を滑りおりていく――すばやく抜いていた前フットストラップに足をいれる。進行風でセイルに手応えが戻ってくる。ボトムでターンして波に相対する。崩れかけていた。スープに当てこむには風が足りなくて無理だ、と判断してスープをなめるように板を返した。
 一瞬、スープにつつまれてボトムへと下りる。
 その一本だけで、菊川まできたかいがあったというものだ。


 道具をいつものように運んで出艇した排水口あたりまで。
 T田さん、T、S田さん、T橋くんがそのあたりで風待ちしていた。
「おもしろかったあっ」というぼくの第一声はまったく信じてもらえなかった。


 待っても待っても風が上がる気配はなく、西方より雲がひろがってきている。
 風はほんのわずか。サイドオフにふれてしまっている。
 ぼくはもう一度、海へ入った。最初の一本よりも風はなかった。アウトにでてもプレーニングしない。方向転換してインへの戻り道、ふたたび、波がうしろからきた。一本失敗したが、すぐ次の波に乗れた。さっき乗った波よりも大きい。肩ぐらい。ノーズが水面を舐め、一瞬、パーリングしてしまう、と思ったが、前フットストラップにいれることができた。ボトムターンして波の斜面をのぼってスープの前でターン。ボトムへ下りる。そこで板が止まってしまったので、波に置いていかれてしまう。それでも歓声を上げてノンプレーニングでビーチへ向かう。途中、調子にのって踝大の波に乗って二回、アップスンダウンする。
 ああ、ウェイブっておもしろいなぁ。


 昼飯もかねて駐車場へと戻る。
 みんなで芝生の上にすわりこんで、雑談。Tとぼくがこのまま、風が終っても今日は満足だ、というと、T橋くんが非常にショックを受けていた。
 そうこうするうちに、雪が降ってきた。二年ほど前にも似たような光景にでくわした記憶が蘇える。見ると、野性化した鶏が駐車場を濶歩している。去年、見た鶏とは別のやつだ。堂々としている。そういえば、今回は野良猫の姿が見えない。
 雪が降りはじめたからか、T田さんが道具を片付け、帰路につく。
 こちらは三時からの吹き上がりに期待だ。


 吹いてきた。
 サイドオフでゲッティングアウトはしづらい風だったが、とにかく上がってきた。インサイドはガスティだ。何度か、沈をくりかえし、なんとかアウトにでた。吹いている。オーバーぎみだ。何本か意図しないジャンプをする――何が悪いのか、ノーズが風下にふられてしまう。
 アウトのジャイブではあいかわらず、沈をし、インサイドへ。
 気づくと波がジャッキアップしてきてそれに乗りかけていた。加速しはじめる。ボトムが遠い。波のサイズがある。パワーを感じる。あわててボトムターンしようと、セイルを引きこんだ瞬間だった。水面に張りついたセイルの上に叩きつけられていた。首が強引に傾げられ、痛めてしまう。気を失いかけた。頭の中がぐわんぐわんと唸り、意識が拡散した。気持ちいいぐらいだ。
 昨日の夜、気絶したら溺死する、とT田さんがいっていたことを思い出し、道具の上に上体を引き上げ、回復するのを待つ。
 何が起きたのかはわからなかった。ノーズがパーリングしたのか、セイルを引きこんだ瞬間、ブローがはいり、板が水面に張りついて急停止したのかもしれなかった。それでセイルごと前に叩きつけられたのだろう。
 幸い崩れる波に巻かれることもなく、無事、ビーチまでたどりついた。道具を波がこないところまで上げる。さすがにすっかりビビってしまっている。その上、風がまた、落ちてしまっていた。
 太平洋岸自転車道の土手から海を見下しているT橋くんたちのところへ行ってみると、T橋くんはセイルを破ってしまったと呆然としていた。


 ふたたび、海へ。
 オフがかっていた風はサイドになって安定した。風速は若干、落ち気味な感じだ。それでもアウトではブローはきつく、何度か、ふっ飛びそうになる――板が260のためもあるのだろう。吹いてくると、260と4.7のアンバランスさを非常に感じる。
 全然、だめだ。
 前方できれいに崩れる波があるのに、うまくシンクロできない。そして、次の波にも。せめてセイルが5.3ならという思いがしきりだ。不満足なセイリングに気分が一気に鬱になる。
 もう少し乗れそうだったが、海から上がる。
 あまりにも腑甲斐なさすぎた。


 今日は二重丸!、というローカルの声を聞きながら道具を片づけた。


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Takehiro Yamada