そして、僕は途方に暮れる




2003 年 12 月 20 日(土)
御前崎菊川河口
晴れ
Sail:ZONE 4.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 255->WAVE265(MISTRAL)



 目を醒して海を見にいくと、菊川河口では見たことがないほど長い波がはいってきていた。幅 100m から150m ぐらいでパワーもありそうだった。うまい人なら三、四発、当てこむことができるだろう波。サイズもある。頭?
 おいしいコンディションなのかもしれない。
 けれど実際に海の上にいるセイラーは五人いるか、いないかだった――おいしさを味わえるのはごく一部の人間に限られているというわけだ。
 ボードを運んだあと、しばらく海を観察していた。
 風は若干、オフがかっている。その影響で風はガスティだった。どのセイラーのセイルを見ても 4 というところだが、そのサイズはぼくは絶対、ゲッティングアウト不可能だ。
 ふと見ると、見覚えのある姿が海から上がってきた。
 I附さんだった。
 どうですか、と聞くと、恐いよー、という。インサイドでは風が足りなくてかなり恐い思いをしてしまうらしい。セイルサイズは 4.2 だという。アウトはオーバーだという。インサイドはガスガスで浮力のある板じゃないと、とのこと。
 ええっ、4.7 を張ろうと思っていたのに――頭を抱えてしまった。
 迷いながらも結局、4.7 を選択して海へ向かう。
 4.7 でもどうしようもないほど、風が落ちてしまう瞬間がある。もちろんぼくの腕でだ。うまい人はさすがに 4 の前半のセイルでもうまくゲッティングアウトしていく。ぼくはひたすらインサイドで沈してウォーターもままならず――セイルが持ち上がらないほど、それぐらいインサイドは風がなかった――、流されていく。
 何度か、風下へ流され、道具を抱えて風上によたよたと歩いて戻るという、いつものシジフォスの苦行をくりかえす。その間に波は最初に見たときほどきれいではなくなってしまった。いつものぐしゃぐしゃだ。
 なんとなく予感がした。
 今日は一度もアウトにでれないかもしれない。
 NG ACP 255 はぼくには浮力が足りないコンディションだった。
 WAVE265 を出そうか、とずっと迷っていた。波のサイズとアウトの風が気になってなかなか思い切れなかった。今日の波は巻かれたら一発で道具を壊しそうだ。


 それにしても寒い。水温自体はまだ、暖かいのだが、ビーチに立っているとすぐに身体が冷え切ってしまう。ついに今日はグローブをだしてしまった。
 御前崎――遠州灘菊川だけど――のおいしい時期は終ってしまったのかもしれない。風があり、そんなに寒くない時期。もうこれからは我慢大会になってしまう。いやだなぁ。南の島に逃げ出したい気分だ。


 二時近くになって風がさらに落ちた。
 今さら遅いかもしれない、と思いつつ、WAVE265 を準備して海岸へ――ちょうどブローがはいっていて唖然となる。が、しばらく待つとなくなった。なくなりすぎだ。
 WAVE265 をセットし、海に入る。
 幸いなことに波のサイズが少しばかり落ち着いてきている。風が落ちたせいだろう。
 ビーチスタートした。
 板の浮力に頼って波を越えていく。時折、完全に風がなくなって板が踝まで沈んでしまう瞬間があった。昔より浮力がなくなっている――のか、ぼくが太ったのか……。
 奇跡的にアウトへ出れた。
 ハーネスをかけた瞬間、わめく――ブームが低いっ!
 しかもひさしぶりにグローブを使ったので右腕の筋肉が張って握力がなくなってしまった。それでも胡麻化しながらセイリングして上っていく。いつもの感覚で走るとまずい、と気持ちを補正しながら乗る。風向きがちがうからだ。
 上らせすぎて失速して沈。風が抜けたのかもしれないが。
 向きをかえてインへ向かう。
 見ると、I附さんが波を越えてゲッティングアウトしてきた。
 奇声を上げてすれちがう。
 I附さんも奇声を上げて答えてくれる――いい人だ。
 白いすじをつくって崩れていく波をうしろから見ながらあんなのに乗ってしまったらオーバーパワーで暴走してしまう、と思いながらも適当な波は見当たらない。少くとも今、ぼくは波の背に乗り上げているわけじゃない、とフロント方向へとにかくカーヴィング。目の前にあるのは波なのかなぁ、と考えながらなんとなく板を返し、もう一度、同じことをする。
 今度はちゃんと波に向かってカーヴィングしたが――そのことに気づいたときには波の背へ突き抜けてしまったあとだった。
 ――ああ、もったいないっ!
 それにしても WAVE265 はやはり、NG ACP 255 に比べると全然、動かない――腕もあるんだろうけど。この二本のちょうど中間の板があれば、よいのだが。


 そのあと、もう一度ぐらいアウトにでれるだろう、とたかをくくっていたら一度も出れなかった。


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Takehiro Yamada