死にゆく者への祈り




2003 年 8 月 10 日(日)
本栖湖ドラゴンビーチ
晴れ
Sail: Expression 6.7(NEIL PRYDE) Board: TECHNO 283 CTS(BIC)



 本栖湖のドラゴンビーチには嫌な思い出しかない。
 流されてしまい、今はモグラン(当時、龍神丸)の桟橋のさらに風下の岸にたどりついてしまったことがあるのだ。葦が密集していて――ビーチは溶岩が冷え固まったものと思えるギザギザの岩場で、裸足で葦を踏みしだきながら道具を引きずり歩いた……。
 浮力のない、風がなければ、どうすることもできなくなるような道具では出艇したくないなぁ、と考えていたのだが、フォーミュラで出艇するには暗礁がビーチ際の水面下にあるので、どうも気が進まない。
 石渡マリンの合宿に御邪魔してN村さん特製のパスタを昼食にいただきつつ、ブローのはいる湖面をしつこく見ていた。
 6.7 のセイルに NG 260 を準備したが、一応、Sさんにたのんで、彼が購入した中古のボードを借りる。TECHNO 283 だ。浮力は充分。スラロームの入門艇といった位置づけのボードだろう。
 どうしてSさんがそのようなボードを購入したか、いろいろと話題は尽きなかったのだが、すくなくともぼくのためではなかったのだけはたしかのようだ。


 TECHNO と 6.7 の組み合わせで出艇。裸足にはドラゴンビーチの岩礁はかなりきつい。冷え固まった岩石がまだ、風化してしまうほど、時間がたっていないのだろう。風は左からのサイドショアだった。
 さいわい強目のブローですぐにプレーニングした。
 フットストラップに足をいれてうめく。足の指のあいだに、小石がはさまっていた。フットストラップに絞めつけられてギザギザの小石が足の指にくいこむ――ちょっとした拷問だ。ワンフットで水面に右足をつけたが、とれない。
 しかたなくセイルを水に落とし、ボードの上にうずくまった。
 それ以降は短かいブローをつかみつつ、混雑したなかをウィンド。Tがしきりにつまんねーつまんねーといっているが、TECHNO の浮力のおかげでぼくは普段の 300 %増しでプレーニングしている。癖のない乗り味で TECHNO 自体は悪くない。ジャイブもやりやすい。もっともジャイブの後半はデッキのノンスリがきいてなくて失敗の連続だったが。
 トップスピードはそこそこという感じだけれども――これはセイルのせいもあるだろう。何しろウェイブ系のセイルなのだ――、フルスロットルの状態なら他のスラロームとくらべて、遜色はなかった。さすがにTのXースピードにはついていくだけで精一杯だった。
 が、他のフリースタイル系のセイラーは片っ端から抜く。
 以上のインプレッションをSさんに伝えると俄然、興味をもったようで、板を交換した。


 Sさんが使っていたのは、DROPS 9'6" だった。今年の最初の方までぼくが持っていたやつと同タイプの板だ。ひさしぶりにその板に乗ってみて、速いことを確認――そして、癖があることも。幅の狭さをひどく感じる板だ。最初に前足のフットストラップにいれるのに、少しばかり困難がある。


 二、三時間で風の状態がかなり悪くなったので、今日は終了。
 UっちーがSさんの道具で乗って目から鱗がポロポロ落ちたらしく、少し興奮していた。
 ぼくは着替えてトイレへ――日が陰りはじめていた。木立ちの中は薄暗く、歩きながらぼくはジャック・ヒギンズの小説のタイトルを思い出して苦笑していた。


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Takehiro Yamada