疾れ風、吼えろ嵐




2003 年 8 月 9 日(土)
鎌倉材木座
雨(台風10号)
Sail: CORE 4.1(NEIL PRYDE) Board: ACP 255



 ――スキニー用のジョイントがスキニーマストに入らなかった。
 砂がかんでいるのか、と思ったが、いくらマストから砂をかきだしてもだめだ。根本的にジョイントとマストの穴の経があってないとしか思えなかった。
 今まで何度もこの道具でセイルを張ったはずなのだが。
 一瞬、車の中にずっといれていたので、熱でマストが縮んでしまったのか、と思った。そんな馬鹿な。
 マストのツーピースの接合部分をチェックして原因が判明した。マストのボトムをひっくりかえして使用していたのだった。普通、ジョイントをいれる穴の方をツーピースの接合に使っていたのだ。
 ノーマルのツーピースマストだと、ボトムはトップと接合する方はオス、ジョイント側はメスになっているのだが、スキニーマストは両端ともメスになっているので、うっかり逆にしてしまったらしい。どうりでなんか、トップとの接合部分が緩かった。
 台風10号の暴風ですっかり頭がテンパってしまっている。
 しかも風は徐々に上がってきている――さっきまで 4.7 と 4.1 を迷っていたのに、今は 4.1 オーバーを心配しはじめる始末だった。
 昨夜は海水浴場がオープンされてしまっているとので、台風が接近してきていてもいまいち、興奮度合が低かった。三浦の菊名海岸の台風ライドか、鎌倉材木座から出艇して海水浴場の沖合いでセイリングするぐらいしか、選択肢は思いつかなかった――鎌倉は波のサイズがでかすぎてできないのではないか、と思っていた。ところが、肩ぐらいのサイズでなんとかなりそうだった。
 しかも風向きは南でかなりサイドに近い。
 今日はめずらしくT、Sさんも材木座入りしている。出艇しようとしたら、F原さんもきていた。N社の人たちもいる。
 出ようとしたところで海から戻ってきたF原さんにいわれた。
「―― 4.0 でオーバー。頭にはクソをつけてね」
 んげっ。
 砂が噛んでダウンの引きが全然、足りてないんですけど。つまりアンダーセッティングというわけ。


 大崎のブランケを越えると、かなりきつい強風だった。
 ハーネスラインがうしろすぎてかけられなかった。すぐさまジャイブしてビーチに戻る。水につけたので、ダウンが引けるはず。セイルのテンションをアウト、ダウンともにかけ増しして、ハーネスラインを前に移動。
 再出艇。
 何度か、セイルパワーで前方にねじれるようにもっていかれるが、なんとか耐え切る。新嶋プロとすれちがい、アウトの波で油断して空中に飛び出してしまう。予想よりも着水まで間があってビビる。そのあと、プレーニングしたところで、ジャイブしようとした。ランニングの状態で暴走――すぐさまセイル手をはなして沈する。そのぼくのかたわらをF原さんが通過していった。
 1,2本、往復して――ジャイブはできなかった――浜にあがる。なんとか乗れる。なんとか乗れる風だが、息はすでに上がってしまっている。浜にあがってきたF原さんと雑談しているうちに激しい豪雨になる。Tはすこしその雑談にはいってすぐに海に戻っていった。
 その後ろ姿を見ながらF原さんがあきれたような声をだした。
「タフやなぁ」


 雨足がおちたところでふたたび、出艇した。
 海にでているセイラーも少なかった。風がガスティになってきていた。抜けたところで耐え、どんと入るブローに耐える。走り出す。また、ねじれるように前にもっていかれかけたが、それにも耐える。
 アウトで偶然、ジャイブに成功してインへ。
 スタボーのセイリング。意識してなくても波に乗ってしまうせいもあってすぐにオーバーパワーになる。こめかみに血管を浮かべてセイルを引きこんで板を波にあわせる。バックサイドのボトムターン――油断するとふっ飛びそうなのでむちゃくちゃなラインだ。トップで板を返して一瞬そこに留まって波が張ってきたところでふたたび、ボトムへ。バックサイドでターンしたときにはトップから白く波が崩れはじめていた。そのスープをかすめるような位置で板を返して波から逃げ出す。
 奇声が出た。
 脳の血管が切れそうなほど奇声を上げてまなじり吊り上げて突っ走って波の背でキックジャンプしたら空中分解してふっ飛んだ。


 浜に上がって一休み。
 大きめの波が打ちよせてくるたびに、材木座の浜は波にあらわれてしまう。そのたびに置かれているセイルとボードが流され、海草まみれになる。
 F原さんがあがってきた。
 笑っている。
「楽しいですねっ」
 声をかけると、F原さんは大きく破顔した。
「すんげーっ、たのしいっ!」


 なかなかSさんとはミートできなかった。
 何度目かの休憩で――あきらかにセイリングしている時間より休んでいる時間の方が長かったが――Sさんと浜で会う。風は 4.1 でも完全にオーバーになってしまっていた。Sさんは 3.7 を張っていたのでちょうど、いいじゃん、というと、苦笑した。
「Sさんのライディング、見たいなぁ」というと、苦笑しつつも道具をかかえて海にはいっていった。
 すこしブームが高すぎるように、見える。
 インサイドのガスティなエリアで、急にはいったブローにあおられて沈。
 波間で苦しんでいるSさんから目を離してふたたび、戻したらSさんの姿は消えていた。
 あれ?


 あとで聞いたところによると、Sさんは道具と離ればなれになってしまってあっという間に風下に――滑川の方に流されてしまっていたらしい。


 Sさんの姿を見つけるのはあきらめてふたたび、海へはいる。
 あいかわらず、風はオーバー。ポートはリーチがかなりバタつにながらもなんとかなるのだが、インに戻ってくる方はオーバーパワーでセイルを開きながら乗るしかなかった。パワーを逃すために上りぎみにセイリングすると、材木座の風上に浅瀬につっこんでしまいそうだ。強引に下らせぎみで乗るしかなかった。
 波のサイズも上がってきている。その上、波と波の間隔がかなり狭くなってきていて、波越えした瞬間、次の波のフェイスに突っこんでしまう。うまく反応できず、すっ飛ぶ。
 ウォーターして戻りのラインの波乗りで波に巻かれてる。
 下に流されているな、と思った瞬間、フィンが海水浴エリアのボーダーロープにひっかかるのを感じる。今日、二度目の海水浴エリア突入だ。ビーチ沿いを歩こうにも波が岸壁に打ちつけている状態でそれも不可能。一歩まちがうと岸壁に叩きつけられてしまう。いったんエリアの沖まででようとしたが、中途半端な位置で沈。そこでスタボーでビーチへ向かう。ボーダーロープはへたくそなキックジャンプでクリア。
 どうにか、浜があるビーチへたどりつく。
 休みたかったが、材木座の浜は消失してしまっていて道具が置いておけない。
 のん気に缶コーヒーを飲みながら歩いているF原さん。セイルを破ってしまったのだという。少しの間、迷ったが――まだ、二時だった――、撤収を決意。F原さんに手伝ってもらう。なにしろ道具を置きっぱなしにできない状態だった。板を置いていたら波にさらわれてしまいそうだったのだ。
 F原さん、ありがとう。


 県営駐車場で道具を片付けていると、滑川の方で赤色灯がまわっているのが見えた。
 消防自動車の他に白い救急車も姿もある。
 Sさんはついさっき、会っていたので無事なのはわかっていたが、Tの姿はずっと見かけていない。確認すべきかな、と思っていたらTがひょっこりと現われた。リペアしていたセイルが破れてしまったので、かなり風下のビーチにあがったのだ、という。


 結局、帰り道に一瞥した感じだと、ジェットスキーヤーが事故を起こしたらしかった。


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Takehiro Yamada