恍惚の人




2003 年 1 月 25 日(土)
御前崎千浜東
晴れ
Sail: SOUL 6.2(NEIL PRYDE) Board: WAVE265(MISTRAL)



 目を醒したのは御前崎菊川河口の駐車場でだった。
 携帯が鳴っている。F島さんからだ。御前崎へ向かっている途中だという。風は吹いている? と聞かれたが、車外の気配からはそれは感じられたなかった。
 電話を切ったあと、寝袋から抜け出た。
 外はいい天気だ。目の前の市営プールの水面に空の青が映えている。
 しかし、風はない。時計を見ると、十時をすこし回っているところだった。予想天気図から考えてもう西風が吹いていても全然、おかしくないのだが。海を見ても沖合いに風があるという感じはない。波もほとんどない。今日たつ波は風波のはずなので、あまりいい徴候じゃないな、と思っているところへF島さんから電話がふたたび、かかってきた。
 F島さんは千浜東にいるという。今日はそこでセイリングするつもりらしかった。風もないので、ぼくもそちらへ移動した。S川さんがいつもそっちでウィンドしているということだったので、一度、行ってみたいとは思っていたゲレンデだった。
 駐車場から海へのアクセスは菊川河口よりすこし遠い感じだった。


 風はなかなか上がらなかった。
 千浜東にはいつもレースで見かけるI崎さんやS野さんなどいた。やがてS川さんがあらわれる。S川さんの仲間の集団にまじりつつ、海を見下す土手へ。I崎さんが出艇しようとしているところだった。が、さすがに風がなく、苦しんでいる。
 風がないおかげで、波は潰れていず、わりといい感じなのだが。
 だれもが今日は外した、と思っていたにちがいない。
 イワモトで仕入れたS川さんの情報によると、舞阪では10mの強風、三十分もすれば、吹くという話だったが、三十分たっても似たような状況だった。大東温泉の風車の向きがオフ、サイド、クロスオンとふれている。風向きすら安定してない。
 一応、沖合いにブローらしきものは見えるのだが。
 三浦も吹いてないからいいか、とF島さんがぼやく。
 菊川河口から出艇したらしいセイルが沖合いにかなりでたところでプレーニングしはじめた。おっ、走ってる、とS川さんがいう。しばらく見ていると、走ったり、止まったりしている。他の艇も出始めた。菊川河口のさらに向こうの三浜あたりから出艇するセイルもあらわれた。めずらしいことに三浜にカイトの姿がなかった。
 そうこうしているうちに風が吹きはじめた。それほど強くはないが、5.7 でいけそうな感じだ。全員が顔をほころばせながら駐車場へ戻っていく。


 ボード(WAVE265)を運び、海の状況を確認した。
 迷う。弱風。5.3 のセイルは選択肢からはずしてOK。しかし、5.7 か、6.2 かで迷いまくる。二度ほど、風のはいり具合を見に、土手を上る。思ったよりもあがらないような気がしてきた。迷ったときは大き目のセイルというのがぼくの基本なのだが、御前崎は吹くというイメージが強烈にあって上のサイズを選ぶ気持ちになれない。
 それでもなんとか、ふんぎりをつけて 6.2 を張る。
 5.2 ――それが最大サイズだったらしい――のF島さんにつづいて海へはいる。
 風は……足りなかった。
 波をこえてアウトへ。沖合いにラインをのばす。ときおりパンピングすれば、プレーニングするかもというブローがきたが、のたのたと沖へ。何もしなくてもプレーニングしてしまうぐらい吹かないものか。きた。板が走りだす。沖合いから帰ってくるF島さんと交差してさらに沖へと向かう。
 ジャイブして失敗してウォーターしてインへとセイリングした。
 戻る方向だからプレーニングしやすいのか、それとも風が安定してあがったのか、インサイド近くまではプレーニングを維持できた――が、その手前で板がとまる。フットストラップに両足をしれたまま、粘ってたまたまきた波に乗る。フロントへカーヴィングしていこうとしてボトムあたりで気持ちだけ板を踏みこんでしまってエッジが水面を噛む。次の一往復のときも同じ失敗をくりかえす。さらに次の一往復のときは、風がたらなすぎてストラップから足を完全に抜いているときに、波が盛りあがりはじめた。
 板が走りはじめる。フロントサイドを見てバックサイドを見た。
 バックサイドの方の波が大きく盛りあがりはじめていた――フットストラップに両足をほうりこみ、加速して波をおりてバックサイドへ板をふる。腿ぐらいのサイズ。トップで板を返して一瞬、そこにいた。波が掘れてきたところでセイルをひきこんで波をすべりおりる。フロントヘ。ターンしながらセイルごしに波の様子を伺おうとした。セイルが潮で真っ白にくもっていた。何も見えない。
 適当に板を返したが、どうも波に置いていかれたようだ。


 二度ほど同じようなことをくりかえした。
 アウトならぎりぎりでプレーニングするのだが、インに戻るとぼくには風がたりない感じだ。けれど、波がそこそこあり、しかもいつものように強風に潰されているわけではないので結構、波に乗れる。ただ、フロントにふっても波から逃げるような形になるため、板を返すときには波があるのか、ないのか、判然としない状態だ。
 それでも。
 おもしろい。おもしろくて何度も波にのる。時には前のフットストラップにしか足がはいってない状態でもフロントへとふる。一度だけ、両足ともストラップにはいってないときがあった。
 あいかわらず、出艇したところの風下に落ちてしまう。しかし、風がそれほど強くないので道具をかついで移動するのも苦にならなかった。声が迸るほど鋭くはないが、思わず笑みがこぼれる心地良さ……。


 3時ぐらいから風がすこし強くなった。
 その影響で波が潰れはじめる。あまり波に乗せられなくなる。夕闇が濃くなりはじめ、最後の一本というところでセイルを十センチほど破ってしまう。ビーチスタートしたのはよかったが、途中、急に浅くなっている場所があり、そこでフィンを海底にあたって前に倒れてしまったのだ。水面にセイルの全面が同時に打ちつけられるような感じになる――瞬間、やばいと思った。一番、ダメージが発生するような状況だった。てのひらを思いっきり水面に叩きつけるような感じ。てのひらがすこしでも傾いていれば、痛くないのだが。
 案の定、セイルが破れているのを見て小さく唸る。
 一本だけ、とだれにというわけでもなく、頭を下げてそのまま、波をこえて沖合いへ。
 ちらりと破れを見た。破れが拡がるような方向にはテンションがかかってないことを確認してほっとする。沖でジャイブしてポートセイリング。インサイド。波とタイミングが合う。
 本日最後のフロントもどき。
 うっきーっ。


 二時から四時までのセイリングだったが、はじめて波乗りをしたという満足感にひたりつつ、撤収。


Return To HomePage | Return To List Page

Takehiro Yamada