男(プロ)の掟




2003 年 1 月 18 日(土)
御前崎菊川河口
晴れ
Sail: CORE 5.3(NEIL PRYDE) Board: WAVE265(MISTRAL)



 そのころのぼくたちはまだ、知らなかった。
 昨日、吹くとの予想をだしていたイワモトが今日は吹かない、といっていたことを。
 ぼくたちとはぼくと、T、F島さんの三人のことだ。
 予想は朝の11時から夕方の4時まで吹くだろうということだったのでぼくらはのんびりと風が吹き上がるのを待っていた。野良鶏(のらとり?)がよってくるのでタクアンをやったりして暇をつぶしながら。
 ――風が吹きはじめた。
 そのころのぼくたちはまだ、知らなかったのだ。予想がかわっていたことを。だからイワモトの予想が的中したとすっかり思っていた。


 沖合いの海面は風にかなり白くなっている。
 岸寄りにはその風はとどいていないようだった――セイルサイズは迷うところだった。沖合いを見るとさらに上がりそうな予感がする。
 Tはニューボードをだす。フローターのウェイブボード――去年はフリーウェイブというカテゴリーで売られていたそうだが――。ぼくのWAVE265よりもボリュームがありそうだ。そして、軽い。
 そうこうしているうちに風はさらに上がったように感じられた。
 F島さんは5.2を4.7にチェンジしている。T、二枚張り。ぼくは5.3。三人の中で一番に海へ出る。波打ち際で NG にセイルをセット。かるくストレッチをしているうちに気がかわった――どうも風は思ったより吹いていない。というわけで、二枚、用意していた板のうち、WAVE265にセイルをセットしなおした。


 波はない。
 ほんとうにない。
 ゲッティングアウトした沖合いの風は充分。ジャストアンダーという感じ。しかし、風向きなのか腕なのか、出艇した場所に戻れない。ほんのちょっと下にたどりついてしまう。思いっきり沖へラインを延しても同じ。最終的にほんのちょっと下。なぜだか、わからない。インに近づくにつれどんどん上れなくなってしまうのだ。かなり上をめざしておいてもだめ。なぜか、ほんのちょっと下。
 今日は気が向いたのでセイルのセッティングをいじってみていた。
 アウトホールの上下二個あるうちの下を使用。いつもなら両方をつかって二穴の真ん中がアウトエンドになるようにしている。下を使ったあと、次に上にかえて乗ってみた。
 ずいぶん感覚――手応えがちがっていたので驚く。
 下の方があきらかに軽い感じになる。かなりちがう。へぇ、と思いながらもアンダーの風なので上のアウトホールを使っていたが、下の方がよかったかもしれない。そういえば、このセイルの前の持ち主は下だけでいい、といっていたことを思い出す。風が足りないと、ダウンもすこし緩める。
 下に下ったビーチでF島さんとランデブー。
 風が足りないーっ、とF島さんは嘆いている。Tひとりががんがんプレーニングして走りまわっている。
 何度も何度もぼくがビーチに上がって休んいるときにもTは海の上にいた。タフなやつだなぁ。
 今年の1月4日――鎌倉でウィンドしたあと、Tと焼肉をくったのだが、そのとき、なげいていたこと――なんか知らないけど波と波の間を走ってしまって波に乗れないんだよ、といっていた現象を目撃する。
 インサイドに戻ってくるT。波をひとつ越え、波に乗ったにもかかわらず、そのまま、まっすぐボトムに下り、そのまま、まっすぐ波と波の間のエリアまで走り切ってしまう。それはいきすぎだろう。ビーチに上がったTにそのことを伝えた。走り切る前に板を返して波に乗れよ、と。Tは笑っていたが、そのあとからはちゃんと波に乗っていた。


 見慣れたセイルだな、とは思っていた。同時に見慣れないとも。
 思わずまじまじとビーチオンしてくるそのセイラーを見る。白いバーレーのボード……あれ? スラロームのボードのようだぞ。見慣れたセイルだと思うのも道理。セイルはレースセイルのRX−2だった。見慣れないのも道理。ここでレースセイルを使っている人間ははじめて見た。風が弱い、とスラロームに乗っているらしい。それにしても無理してアンダーで乗るよりも正しい選択かもしれなかった。


 いったん駐車場に戻ってひと休みしてふたたび、海へ戻る。
 インサイドに戻ってきているボードがいきなり、バルカンをした。一瞬、沈したが、すぐにウォータースタートにリカバリーするとアウトへ向かう。上体をハイクアウトさせ、ボードにスピードをのせる。スラロームっぽい乗り方だ。以前、沼津の牛臥で見た山田プロの乗り方を思いだした。体格が全然、ちがうので山田プロでないことはたしかだが。
 目の前に波――そのまま、ジャンプするのか、と見ていた。
 が、くるりとジャイビング・テイクオフ。波のへりに沿って激しいスプレーがあがる。うまい。そのまま、ウェイブライディング。フロントにふっていく……。動きが全然、ちがう。プロだ。確信した。おそらく城和プロだろう。
 風下にいってしまう。めずらしくビーチにいたTと話しをしてふと、風上の海面を見ると、城和プロがいてウェイブライディング……。目が丸くなってしまった。一瞬で風上まで戻ってきていた。
 うまいやつは行動半径すら並じゃない。


 セイルチェンジするしかなさそうだった。
 が、そうやってうだうだとしているうちに風が上がりはじめた。
 出艇。思いっきり沖合いへでていく――が、あいかわらず、出艇した場所へは戻れない。ひとつには風が足りないのでパンピングしてプレーニングさせるのがへただということがある。ぼくはまだ、一種類のパンピングしかできない。風下へノーズを向け、ボードを蹴り出しつつ、セイルをあおるやり方。これだとどうしても風下へかなり落ちてしまう。
 ゲッティングアウトのときも同じだ。
 以前からうまい人間のパンピングが気にはなっていた。セイル手を細かく、振動させるように動かすパンピング。
 やってみた。
 効果あるのかなぁ、と思っていたが、効果はあった。たしかに走り出す。プレーニングするかしないかのときにやるといいようだ。まだまだ、身についたとはいえないが、リーチではばたいている感じらしいということは把握する。ふーん。


 上がった風は気の迷いだったように、あっという間に風はふたたび、足りない状態に。
 F島さんとぼくはビーチで見学組。
 いきなりF島さんが興奮した声をだした。
「吹いてるじゃないですか!」
 たしかにF島さんが指ししめしたセイラーは思いっきりセイルを引きこんでプレーニングしている。しかし。
「あれ、スラロームっすよ」
「えっ……あっ、本当だ……まぎらわしい……」


 風は戻らず、今日は打ち止め。
 ちょうどイワモトの昨日の予想通り夕方の4時であった。


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Takehiro Yamada