フォーミュラ、割れた




2002 年 10 月 20 日(日)
三浦菊名海岸
曇り
Sail:RX1 9.3(NEIL PRYDE)->RX1 8.0(NEIL PRYDE)->CORE 5.3(NEIL PRYDE) Board:FALCON 90->DROPS 9'6"->WAVE265(MISTRAL)



 9時に海に出た。
 三浦菊名海岸の海は黒っぽくなっている。風がある証拠だ。少くともフォーミュラなら乗れる――来週はレースもあるので練習もかねて出艇した。
 ひさしぶりだ。
 まともにセイリングしたのは一ヶ月前だ。
 身体はすっかりなまってしまっている。ビーチスタート直後、ブローをつかんだ瞬間、前に飛ばされた。なんとかリグをノーズにぶつけずに済んだ。9.3 のセイルにふりまわされてしまっている。あかんなー、動かねーよ、身体。
 沖にでると、思った以上に吹いていた。オーバーだ。それでも練習だと乗りつづける。来週のレースは同じようなコンディションになる可能性が高い。津久井浜へ向かって上っていく。それにしても三浦の海面はけっこういやらしい――ポートで上っているとき、風波がおりかさなるように真正面から連なってくるからだ。時折、掘れた膝下ぐらいの風波にあたると空中に跳ねあげられてしまう。これがインに戻るとき、逆に下らせると、前の波にノーズが突き刺さって往生することになる。
 あいかわらず、クローズはしっくりこない。ポート、スタボーともに。
 風が吹けば、あるいはと思っていたのだが、そんなことはないようだ。
 それでも10分ほどで津久井浜まで到着した――驚いた。以前、スラロームで一生懸命上ってきていたときにはこんなに早く辿りついたことはなかった。津久井浜はあいかわらず、菊名海岸よりも風の入りがいい。風の強さは二割増しというところか。だれもフォーミュラに乗っていない。スラロームか、フリーライド系だ。
 風向きがオフ気味なのでスタボーで乗っていると上っていないような気になる。ポートは逆に上っているような印象だ。錯覚だろう。いずれにしてもポイントがずれているような感じ――ポートは風波に跳ねられてえぐい。
 水分補給のために津久井浜にあがり、試してみようと思い、ジョイントの位置をうしろに下げる――が、これははずしだった。セイリングフォームが狭苦しい。
 上りっぱなしでいるわけにもいかず、時折、下りをいれる――こちらもいまいち。風がけっこうガスティなため、ポートは失速してしまって沈、というパターンをくりかえす。どこまで下り角度をとれば、いいのか、視界に基準にするものがないためかもしれない。
 風は若干、落ち気味かな、と思っていたら風上の方から白波を蹴立てて吹いてきた。
 喜々として走り回っているスラロームのセイラーの間を縫ってスタボーで下る。
 風波をがんがん乗り越えていたら、ふいにノーズが波に突きささった。ボードのボトム全体が水面に張りついたようになって急制動がかかった。瞬間、両足がフットストラップから引っこ抜かれて前に飛ばされた。まずい――マストがノーズに叩きつけられる。小気味いい、厚めのウェハースを真っ二つにしたときのような音が響いた。水面に叩きつけられる寸前に、ぼくははっきりとそれを耳にした。
 衝撃はデッキからボトムに抜けていた。
 見事に二十センチほどボトムが割れた。


 しかもそれだけではなかった。
 レスキューシートとホイッスルをいれたウェストポーチがすっ飛んでしまっていた。


 菊名海岸まで戻り、ぼくはへらへらと笑いながらボードとセイルを片付ける。
 風はいつもの三浦マジック――午前中だけ吹く不思議な現象――ではなく、まだ、吹きつづけそうだった。さすがに午後になって風の入りは悪くなったが。それでもSさんがフォーミュラで出艇して悲鳴を上げてあわててスラロームをだすほどだった。
 ビギナーのY本さんがきていたが、さすがにつらそうだ。
 来週のレースの練習といって 10.6 のセイルとフォーミュラに乗るTが不思議な生き物に見えた。
 ぼくはスラロームの板をだし、はじめて使う 8.0 のセイルは張った。さすがにレースセイルなので以前のメインセイルだった V8 7.5 に比べると、重い。面が荒れているのでジャイブがどうしてもへっぴり腰になってしまう――というか、すっかりジャイブを忘れてしまっていた。
 Sさんがほぼ同じ条件の道具なので、抜いてやる、と追いかける。
 が、速い。
 追いかけていて差が縮まらない。しかもSさんは荒れたチョッピーな海面をものともせずに思いっきり沖合いにでていく。たぶんSさんの方が膝が柔らかいのだろう。ついていけない。かんべんしてくれ、とぼくはつぶやいていた。
 十何回目かの沈のあと、ぼくがウォーターで復帰したとき、Sさんが後方、風上側から突っ走ってきた。スタボー、インに戻るラインだ。タイミングを合わせてぼくも走り出す。テイルトゥノーズ。さいわい、インへ戻るラインは波に弾かれることはない。
「抜く」
 限界いっぱいのスピードで、ラインをクロスさせて上側へ。
 並走まではいけるが、そこからさらに前にでることができなかった。何度も抜こうとするが、果せない。今思えば、下受けされた状態になっていたのかもしれない――結構、艇間はあけていたのだが。いずれにしても艇速差がほとんどないことはまちがいなかった。
 見た感じSさんにはまだ、余力があるようだったが、こちらは目一杯だった。
 一瞬、波にエッジをくわれた。
 それでジ・エンド。
 ぼくは水飛沫をあげて激沈した。


 先にビーチにあがって休憩していたらSさんが満面の笑みであがってきた。
「サイコーッ」


 菊名海岸の風上の駐車場にチームT芝がきていた。
 そこをTたちとたずね、ひさしぶりにI村さんと話す。今からスラロームででるらしかった。
 三時をまわり、TとSさんは用事があるということで先に上がる。
 ぼくはジャイブを何度か、試みて思い出そうとした。だめだ。すっかり健忘症。そうこうしているうちに風がまた、上がってきた。沈した拍子に右太ももの裏側の筋肉がつった。イタタタタッ、と身体を丸めていたら、すさまじいスピードでI村さんが走ってきた。走り去る。目が点になる。速い。しかもかなり柔らかく海面のギャップを膝で吸収している。あのスピードにはついていけそうもない。
 あがる。
 風は完全に強まり、今やウェイブに 5.3 のセイルでも充分だ。白波で暗くなってきた中、海面が白く見える。
 だいぶ、迷った。
 ウェイブをだそうか、と。
 今から準備すれば、三十分は乗れる。
 セッティングをはじめる。ダウンのシートをぶち切ったりしたため、ほとんど、準備が終わったときには黄昏。十分ぐらいなら、と海にでた。ビーチスタートした瞬間だった。
 足がつった。
 ああっ、とうめいてすこし走ったが、回復しない。バランスをとるため、身体を動かすこともできず、沈。水中で身を丸めたまま、回復を待つが、ビーチに流れつくまで治らなかった。
 せっかくセッティングしたのに、とも考えた。
 しかし。
 夜に向かってなだれこんでいく海にはもうだれもいなかった。


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Takehiro Yamada