フォーミュラ、飛んだ




2002 年 6 月 16 日(日)
本栖湖FANビーチ
曇り、小雨あり
Sail:RX1 9.3->V8 7.5 (NEIL PRYDE) Board:FALCON 90(FANATIC)->DROPS 9'6"



 本栖湖へ向かうTからメールがはいったが、神奈川県では小雨が降っていた。
 厚い雨雲が空をおおい、陰鬱な雰囲気だった。道志街道を抜け、山中湖に到着してもほとんど変わらない――天気予報では、山梨県は晴れとのことだったのだが。
 風はなく、道端の幟はしんなりとうなだれていた。
 本栖湖の近くまで来てようやく道々の木々の葉が揺れはじめた。
 ドラゴン側の湖面を三日月形をしたブローが走っていくのが見えた。
 本栖湖FANビーチに到着した。先着していたのはT、Sさん、I田さん。来るという話だったF島さんの姿は見えなかった。Tがいうには、さっきまでスラロームが乗れるぐらい吹いていた、という。そういう彼は 10.4 のセイルを張ってフォーミュラの準備をしているところだった。
 梅雨の時期にしては妙に人口密度が高いな、と思っていたら逗子のココナッツボーイが合宿をしていた。雑誌でよく見掛ける霜山さんが引率しているようだった。
「十二時半に練習開始ね」というTに苦笑しながらぼくはセッティングにとりかかった。
 なぜか、Sさんは車のドアにとりつけたスピーカーをいじっていた。
 7.5 をセッティングしたあとに、9.3 をセッティングした。
 セッティングしている間に風が上がることを期待したのだが、風は上がらず。FALCON 90 を車からひっぱりだす。そのころにはTとI田さんはフォーミュラで出艇していた。ガスティなコンディションの中、プレーニングしている。
 それにぼくも続いた。
 ブームは前回よりもさらに高くしてある。セイルのあつかいがとても大変だったが、プレーニングしてしまえば、そんなことはなかった。むしろもうひと拳、高くしたいぐらいだった。そういうわけで――急に風が抜けてハーネスを外しそこねると、完全に宙吊りになる。そこでボードの上でぴょんと飛び跳ねてハーネスを外した。
 そんな真似、はじめてだ。
 しかし、そんなことも一度経験してしまうと、フォーミュラだけではなく、後でスラロームでも同じことをやるようになってしまった。


 さすがにフォーミュラ。スラロームが四苦八苦している中、ブローをつかめば、プレーニングする――T、I田さんを追ってみた。FANビーチよりも風上側で乗っている。Tの上りにあわせて上ろうとするが、ついていけない。どうしても落ちていく。Tの道具が一番有利なのはまちがいないのだが――FALCON 100 に 10.4 のセイル――、I田さんはついていけるようだ。
 I田さんは STAR 95 に 9.0 のセイルだ。
 下りも遜色なく、深くTについていっている。
 何度か、往復しているうちにSさんが出艇してきた。
 SさんはしばらくFANビーチのところで乗っていた。ジャイブをくりかえしている――だいぶん安定したジャイブだった。よくよく考えたらSさんはずっとフォーミュラ系の板に乗っていたのだから馴れているのだろう。
 Sさんはぼはぼくと同じ FALCON 90 だ。
 セイルはぼくの方が 0.3 だけ大きい――Sさんの方が最新に近いセイルだが。
 Sさんがスタボーで走り出したところをうしろから追いかけた。ブローがはいり、お互いにプレーニングしだす。くいっ、とSさんが風上にノーズを向け、上りはじめた。ほぼ、同じぐらいのスピードだったのでぼくもノーズを風上に向けた。失速しはじめる感覚に少しだけ風下へ落とした。Sさんについていけない。道具がほぼ同じ以上、これは腕の差か、セッティングか。
 さらに強いブローがきた。それをつかんでようやくSさんと同じ角度で上ることができた。


 FANビーチ風上側――ほぼ目一杯上ったところで、強いブローがはいった。
 一瞬、Tが潰れかけたぐらいだ。
 そこを一気にぼくは下りはじめた。アウトカニンガムを緩め、深く。かなり深い角度だ――そこで一転、上に板を向ける。アウトガニンガムを絞める。ちらりと目の端に下っていくTが見えた。それを追って再び下り。耳元でゴゴゴーッと音がしているような気分だ。深いTの下りについていけるのがわかる。しかし、スピードはほんどかわらないこともわかった。単純なスピードだけならTに勝るのではないか、と思っていたので、ショックを受ける―― FALCON 100 の方が 90 よりも接水面積が大きいのは道理だからだ。FALCON 100 のテイルにはいっている切込みがかなり効いているのかもしれない。フルプレーニングしているときは 90 並の接水面積しかないのかもしれない。


 どうやら問題は風域らしかった。
 上りにしろ、下りにしろ、人並の角度をとるには他人よりも強い風をぼくは必要としているらしい。強いブローの中でならTに近い角度で上れたのだ――もっともTのセイリングフォームはかなりカイトがはいっているので、本当はもっと上り角度がとれるはずなのだが。
 これはたぶん、スケグのサイズだな、という感蝕だったので道具を片付けるとき、Sさんの使っているサイズを聞いた。64cm 。ぼくは 57 cm だ(ちなみにTは 70cm。I田さんは聞き損ねた)。この差は大きいのかもしれない。でも小さいスケグの方がトップスピードはでるはずだ。
 それともフォーミュラだとボトムの面積がある分、スケグを小さくしてもトップスピードの差はそれほどでないんだろうか。


 二回ほど休みをとりつつもフォーミュラに乗りつづけた。
 かなり疲れてきたのか、沈が増えてきた。
 おそろしいことにI田さんは瓢々とほとんど沈せずについてくる。走り出し、上り角度トップスピードなど個々はTがあきらかに速いのだが、トータルではI田さんの方が速いかもしれない。
 かなりきついブローが湖面を舐めていく。
 Tがガンと深く下りはじめた。それについていくI田さん。さらにそのあとにぼくはつづいた。オーバーだ。凄まじい勢いで下っていくとFANビーチあたりのスラロームが走り出す。それをクロスした。Tが目の前のスラロームのテイル側を抜けた。さすがにI田さんとぼくはそれについていけなかった。角度を若干浅くする。しかし、その角度で走るにはブローがきつすぎた。深くするか、それとも上りに切れ換えるか――。
 スラロームとクロスするラインを走るのはむずかしい。安全策をとってぼくは上りに走りを切り換えようとした。アビームぐらいまで回しこんだとき――フォーミュラの幅広い板がふわりと舞った。その一瞬だけは快感だった。
 次の瞬間、裏風を受け、セイルごと水面に叩きつけられた。
 水飛沫に何も見えなかった。
 あまりの衝撃にセイルが破れるっと思ったことは覚えている。
 セイルは無事だった。
 右手首が痛んだ。裏風を受けたとき、ブームが自分に向かって打ちつけられた格好になったのだ。その衝撃を右手で受けてしまった。
 ウォーターをしようと右手でマストをつかむことができない。触ってみたところ、骨には異常はなさそうだ。せいぜい筋を痛めたところだろう。水面にぷかぷかと浮きながら風上の方を見ると、ブローに白波がたちはじめていた。
 風が上がった。
 このまま、フォーミュラを乗るのを終了すると、しばらくこわくてフォーミュラに乗れなくなるような気がしたが、今、乗る方が恐怖だった。尻尾を巻いてビーチへ逃げ帰る。
 そして、スラローム―― DROPS 9'6" をだした。


 最初の1、2本は悪くなかった。
 スラロームでフルスピードでかっ飛ぶ。が、すぐにウルトラガスティになってしまう。風がなくなると、完全になくなってしまう。無風の間に鬼ブローが時々、はいる、というコンディション。あまり楽しめない。それでもTはフォーミュラに乗っていた。I田さんはしばらくして上がってきた。どうやらギブアップらしかった。
 Sさんはあわててスラロームの準備をしている。
 しかし、セイルを準備していたぼくとはちがって手間がかかっている。
 きた。
 ブローだ。
 ビーチスタートした。
 全体重をセイルにあずけ、フルスピードへ――速い。やばいぐらい速い。しかもブローがはいりはじめたばかりの湖面はほとんど荒れていない。スピードがでる。目がついていかない。
「うわあああああっ、こえぇぇぇぇっ」
 絶叫してセイルを離した。
 激沈。


 さすがに恐い目ばかりあったせいか、セイリングをつづける気力がかなり萎えた。
 小雨も降り、気温が下がりはじめる。
 ずっとビーチで出艇しようか、迷いつづける。
 やめた。
 そう思って片付けをはじめると、風がかなり安定してはいりだした。今日一日で一番、いいコンデイションになったが、ふたたび、でる気力はなかった。


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Takehiro Yamada