三浦レーシングシリーズ第2戦をパスして




2001 年 12 月 15 日(土)
鎌倉材木座
晴れ
Sail:ZONE 4.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 255



 N沼さんに連絡をとると、すでに材木座にいてウィンドのセッティングを終えたところだという。セイルサイズは 4.5 。風は 4.0 ジャストだが、北西に風は振れるという予報に風は落ちるかもという読みのうえのチョイスだった。
 F島さんは首都高を検見川へ向かっている――北西に風が振れても乗れるようにという判断らしい。
 あちらこちらにかけた携帯電話をポケットに戻して、ぼくは三浦津久井浜の海を見た。朝日に染まって黄金色に輝いた海面はフラットだが、びっしりと白波がたっている。ひさびさに見るどん吹きの海だ。
 今日は「Tears」主催のダウンウィンドスラロームのレースだったが、ここまで強風のレースは去年の East スラローム第4戦以来だ。セイルがない。スラローム用のセイルは 7.5 が手持ちの最小だ。さすがにそれではレースにはならないだろう。それくらい吹いている。しかもこれだけの風だと、板もオーバーボリュームでセイリングどころではない。板を抑えつけるだけで精一杯だろう。
 Tはウェイブセイルをだそうとしている。ぼくもレースにでるならウェイブセイルをだすしかないのだが――板の問題もあるが――あいにく、ウェイブセイルにはセイルナンバーをつけていない。つまりレースでは使用できないということだ。
 ――そういう風ないろんな理由はあったが、結局はウェイブの魅力には勝てなかった。
 Sさんを巻きこんでぼくは鎌倉の材木座へ向かう。
 N沼さんもF島さんも北西に振れることを念頭に置いていたが、ぼくの経験ではこんな日の南西風は一日中、吹き荒れることになっている。天気予報がなんといっていようと。


 鎌倉の海にはすでに十数艇のウィンドが出艇していた。
 駐車場にいれたSさんとぼくに気づいたN沼さんがすぐにあらわれた。少し話してセッティングをする――N沼さんの情報から 4.7 のセイルを選んだ。板は NG 。どこまでオンショアウェイブで乗れるか、不安はあったが、試しだ。
「おれはオレンジの NR だから」
 そういってN沼さんは海へ戻っていった。
 驚く。こっそりセイルを買いかえていたらしい。伊豆白浜でセイルが古いといわれまくったことが、原因なんだろうな、やはり。
 海岸のすぐそばの高台のようになった場所でセイルをセッティング。
 その場所はちょうど出艇していくウィンドサーフィンを見下ろすことができる。ウェットスーツに身を包んだセイラーがひとりそこに立ち、缶ジュースを飲みながら海を見下した。
 上背がある。
 Y原さんに似ていた。
 鎌倉にはY原さんにそっくりな人がいるんだ。これはみんなに吹聴しなければなるまい、と考えながらセイルのセッティングを終えるとその男が近づいてきていった。
「セイル、いくつですか、山田さん」
 ――あれ? 本人かい。
 F島さんが検見川へいったので千葉在住のY原さんもすっかりそっちだと思っていたのだ。
  4.7 をセッティングしたというとY原さんは目を丸くしていたが、海では風が落ちはじめていた。Sさんはそれでかなり迷った末、5.3 を選択している。ぼくはいざとなったらボードを浮力のあるものにかえるつもりで、海へ出た。


 材木座はひさしぶりだった。ぼくのそれなりに長いウィンド人生で二度目か、三度目かの訪問になる。以前、きたときは県営駐車場は五時までだったが、二十四時間の営業になっていた。
 西系でセイリングするのははじめてだ。
 ポートでゲッティングアウトしてそのまま、走りつづけると弓なりの海岸線の向こうにつく。そちらからはスタボーのゲッティングアウトで戻ってくることになる。普通、ゲッティングアウトすると方向転換しないとゲッティングインできないので、奇妙な感じだ――ゲッティングアウトできれば、そのまま、やがてオンショアだが、ウェイブライディングできるのだ。むしろ沖合いからスタートしているような状況なのだろう。
 なのに最初、ゲティングアウトには苦労した。波もほとんどなく、風をつかめば、それで済むような状況なのだが、その風をつかめなかった。風が足りない。セイルにまったく手応えがない。セイルに風がつかめないので板がずぶずぶと沈んでしまう。
 いっそ板を浮力のあるものに交換しようか、とも考えた。
 その前にとセイルのアウトを緩めてみた。
 それで劇的にセイルの手応えが変った。風がつかめるようになる――どうやらセイルを張りすぎていたらしい。ブローをつかみ、走り出した。そのまま、ポートで向こう岸までセイリングし、そこでボードから下りて向きをかえてスタボーで帰ってくる。ジャイブの必要も沈してウォータースタートする必要もない。変なゲレンデだ。
 二、三往復した。右腕がパンパンになってくる。それを胡麻化しながら乗る。ポートで下ってゆき、左から押し寄せてくるスープに板を当てこんで楽しみ、スタボーはタイミングをみてジャンプ――自分の眼下を青く輝く海面が流れていく。まるでヘリの空撮のような映像だ。
 一本、タイミングばっちりで空中に飛びだした。
 滞空時間の長さで高いことを知る。
 セイルからの力も感じ、空中に放り出されたという感覚でもない。飛んでいる――その感覚のまま、着水。衝撃で左足のすねの裏側――腓腹筋が攣る。思わず短く悲鳴を上げて沈した。
 しばらく波にもまれながら左足の回復を待つ。


 出艇したエリアに戻ると、Y社のO滝さんがきていた。
 挨拶をして少し話す――それでY原さんは最初、葉山でウィンドするつもりだったということを知る。それをO滝さんが馬鹿なこといってんじゃねぇ、と材木座にくるようにいったらしい。
 ビーチに上がると、新嶋プロが道具を運んでくるところだった。


 まだ、空腹感はなかったが、念のためにカロリーメイトを缶コーヒーで食べる。
 ふと自販機のところから横を見ると、Y社、HHコンビがウィンドの準備をしていた。出るの、と聞くとうなずいていた。去年の今ごろ、H野さんはウォーターはできなかったのになー、と感慨にふけりながらビーチに戻ってゴミ箱にカロリーメイトの空箱、その他を捨てる。
 そのまま、海に出たのだが、このとき、ぼくはウェストハーネスに小銭入れをはさんでいた。すっかり忘れてしまっていて夜になるまでまったく気づかなかった。
 今ごろ、ぼくが唯一もっていたブランド品は鎌倉湾に沈んでいる。


 第2ラウンド。
 風はかなり落ちはじめていて今日は終りか、と思えたが、しばらく待っているうちにきつめのブローがはいりだし、4.7 でもオーバーになる。Y原さんと出艇エリアのところですれちがったが、へこんだ顔をしている。聞くと、うまくベアできない、という。ベアしていったらラフしてしまう、と。
 あとで気づいたらY原さんの乗り方をこっそり見てみよう。
 そう思いながらゲッティングアウト。瞬間、Y原さんのことは忘れた――今日、参加するはずの三浦レーシングのレースのことも全然、思い出すことはなかった。
 ポートセイリング。ウェイブライディング――といってもバックサイドでせいぜいスープに当てこむことぐらいだが――それを狂ったようにくりかえす。ターン。スープに当てこみ、板を返してスープから滑りおり、再び、ターン。くりかえす。完全に常軌を逸っしていた。しつこく、スープライディングをくりかえしてほとんど、スケグが海底につく寸前までやる。
 やりすぎてまた、左足の腓腹筋が攣ってしまった。


 何度もくりかえしたスープライディングのうちの一回。ふと思いついて板を返すタイミングを意識して遅らせた。板は空中に飛び出し、エアボーン。身体はひねられている。
 かっこいいっ。気持ちええっ。
 自己満足し切っていたらひねった身体を戻すのを忘れていた。
 脇腹から沈。


 それにしても NG の調子がいい。
 スープに当てこんで板を返すとき、ルーズにやってもちゃんと板が返ってくる。ジャンプしたときの安定感もある――これはセイルのせいか?
 ただ、テイルターンの反応が良すぎる。
 バックサイドでターンしているとき、疲れていいかげんに後ろ足だけでターンさせると、くんっと板が回りすぎてしまう。これが以前のウェイブの主力ボード――というか、それしか持たなかった――ミストラルのウェイブ265は逆に全然、板が回ってくれなかった。ちゃんとレイルをかませるように回さないとだめだった。NG は回りすぎてしまうので逆にレイルをつかうように意識してないといけない。
 不思議なことにやっていることは結果的に同じだ。


 材木座から上りぎみのラインでセイリングしていくと、胸〜肩ぐらいの波が割れている場所にあたる。徐々にいい気になってそこへ向かった。波が張りはじめたくらいから波に乗せたいのだが、どうしても崩れはじめるくらいになってしまってスープライディングになってしまう。スタボーならもうすこし突っこんでいけるのだが、ポートはいまいち苦手だ。それでも何度か、崩れる寸前の張りつめた波の斜面をボトムへターンぎみで駆け下りることはできた。
 快感のあまり、頭の中は真っ白だった。


 二時ぐらいに出艇したあたりでSさんと出会う。
 F原さんのところへ遊びにいこう、という。挺庫の大掃除をやったあと、鍋をやっているというのだ。休息もせずに海にはいっていたSさんはかなり疲れていたのだろう。ぼくも足が攣るのでかなりテンションが下がってきている。
 御意、というわけでF原さんのいる挺庫へ。
 O松さん、N社のT嶋さん、F原さんの部下のO橋さん、それにM下さんなど他、十名ほどの中に濡れたドライスーツのまま――失礼な話だ! もっともF原さんもウェット姿だったのだが――、Sさんとぼくはお邪魔して豚汁を御相伴にあづかる。
 一時間ほどもてなしを受けたあと、再び、海へ。
 F原さんも出艇。想像以上にF原さんが上手だったので驚く。ハーネスラインがとても長いのが気になったが。
 風向きは右へ若干振れたようだ。かなりオンがきつくなってきていた。波は昼ごろほどよくなく、ぐしゃぐしゃになっていてしかも波と波の間隔が狭いときがある。ジャンプしてつづいてきた波の斜面につっこんで往生してしまった。


 暗くなってきたのでN沼さんやO滝さんは帰ってしまっていたようだ。
 Y社軍団で残っているのはHHコンビだけだった。
 H塚さんのゲッティングアウトを一度だけ見た。上背があるせいでかなりの迫力がある。リーチの長さが目立つ。ちょっと日本人ばなれしている。上達してきたらかなりのボードスピードの持ち主になるな、とすこし羨ましくなる。
 ウィンドは体格差がものをいうからだ。
 ワールドカッパーの身体的な特徴はそのリーチの長さだ。


 そういえば、書き忘れていた。
 Y原さんのゲティングアウトを目撃することはできた。
 たしかにベアさせていってフットストラップに足をいれようとしてセイルを開いてしまい、ラフさせてしまっている――セイルから風を抜くと体重が足にかかるからだろう。結果、ボードを蹴ったような状態になってしまうというわけだ。
 セイルを引きこんで体重をあずけたまま、フットストラップに足をいれなければ、ならない――ということに、Y原さんの動きを見てはじめて気づいた。


 第3ラウンド。
 フットストラップが外れてしまうなどのアクセデントはあったが、今日一日の快感は持続した。


 帰路の途中、検見川へいったF島さんから電話があった。
 どうやら千葉は風がよくなかったらしく、午後早くに風は終ってしまったとのこと。外したとしきりになげいている。明日の御前崎菊川行きはどうするのか、というので今晩の疲れ方しだいです、と答える。
「F島さんはどうするんです?」
「行きますよ」
「えーっ、タフですね」
「このままじゃ、この週末は終れませんよ!」
 ……なのに翌日、F島さんは御前崎にはいなかったのだった。
 ぼくもだけど。


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Takehiro Yamada