
眼福
2001 年 05 月 13 日(日)
本栖湖FANビーチ
晴れ
Sail:RX1 8.4(NEIL PRYDE) Board:DROPS 9'6"
道の駅なるさわで一泊した。
Sさんはとても大変だったが――なにしろ車中泊するにはクルマの中の道具を全部、外に出す必要があるのだ――、トイレも洗面所もある以上、道の駅はかなり便利かもしれない。なにしろ、道の駅で一ヶ月以上、車中泊してパチスロにあけくれたというプロのスロッターの話もあることだし。
近くには温泉もあるし、コンビニエンス・ストアもある。
のんびりしていたのでちょっと出遅れた。本栖湖についたときには路上駐車したクルマがけっこう並んでいた。どうやら今年の本栖湖FANビーチの風上側は、湖岸にクルマを乗り入れられなくなっているようだ――ジェットスキーヤー防止かもしれない。先週、唯一、空いていた湖岸へ道にはチェーンが張られ、塞がれてしまっていた。そのすぐそばにミニパトが停まっているものものしさだ。
それでも対岸からジェットスキー軍団がやってきたのにはびっくりした。
路駐したクルマの最後尾にクルマをつける際に、競艇練習場の建物を見る。窓がベニヤで塞がれてしまっていた。もしかしたら封鎖になってしまったんだろうか。競馬はたしなむけれど、競艇はしないのでそのあたりのことはちょっとわからない。
昼をまわると、風が吹きはじめた。
本栖湖の周回道路から見下ろす湖面は白波がたち、かなり吹いているように見える。完全にオーバーかな?
ところが実際に出艇してみたが、そうでもない。8.4 では多少、きついという感じだった。
風が軽いのだ。
何本か乗っているうちに、昨日の疲れがでてきたのか、なんとなくもう勘弁という気分になってきた。Sさんも同じ気分だったらしく、今いち表情がさえない。気合いを入れる意味もあって昨日にひきつづき、マッチレースを行なった。
コースは昨日と同じ。
FANビーチの風下からスタートして風上を目指す。
まずはぼくが先行した。しかし、昨日とはちがってSさんは上り角度をぼくよりもとりながらきっちりとついてきた。あまり奥まで行かずにタックをうつ。それにあわせてSさんもタック。ぼくより二メートルほど風上、一メートルほど手前だった。
やばいなぁ、と瞬間、思った。
ブランケットにいれられて殺されてしまうかもしれない――が、さいわいなことにSさんはセイルを水につけてしまった。それでぼくが走り出すことを阻止できなかった。
半タック分、ぼくが先行した。
タック二回で仮想上マークへ向かう。
と、目の前にマークがあった――ジェットスキーヤーが練習のためにマークを打っていたのだろう。利用しない手はないな、とそのマークを上マークとして回航。しかし、ジャイブはせずにそのまま、下りへ。
ポートでビーチぎりぎりまで下ってからジャイブして、スタボーでさらに下る。
昨日の反省でなるべく混雑したエリアを避けるため、アビームでゴールに行ける地点まで下ってジャイブを打つ。そして、FANビーチまで走って先着した。
二回戦。
スタート直後、今度はSさんが先行した。
上り角度はぼくの方が悪いがなんとかついていく。Sさんは湖面の奥の奥まで突込んだところでタック。ぼくもそれに合わせて奥の奥までいってタック。今、考えてみると、もっとはやくタックすべきだった。奥の奥のところは風がなくなることが多いのだ。
Sさんとぼくは上下二メートルほどの間隔で並走。ポートを延ばす。前方にセイリングしているセイラーがいた。ぼくにとって位置が悪い。風もちょっと足りなかったのでぼくはしかたなくそのセイラーの風下を通過。下らせた分、Sさんより前に出たらしい。一瞬、Sさんのブランケットゾーンにはいって風がすぽんと抜けるのが、わかった。さらにもう一度、風が抜けたが、それはSさんではなく、その一般セイラーのブランケットだったかもしれない。
岸が近い。Sさんとほぼ、同時にタック。
失敗した。沈。
その間にSさんは先へ。ぼくがなんとか、セイリングに復帰したときには1タック分ほど、差がついていた。タックして風上マークの方を見ると、Sさんが下りにはいるところだった。くーっ。
ぼくは風上マークをめざすが、高さが足りない。
Sさんはほとんどまっすぐ、下ってゴールへ向かう。ぼくにはランニングにしか思えないほどの下り角度だ。
ポートのタックで再び、沈した。
今度はなかなかリカバーできない――ウォーターに失敗してじたばたしているうちに、根性がくじけた。リタイヤしてゴールへと戻った。
さすがに二連発でマッチレースをやると――距離は短かかったとはいえ、疲れた。
それ以降はフリーセイリング。
先週も見かけたUSナンバーのセイラーを見かける。何者なのかはまったく知らない。白人だ。先週と同じくロングボードでセイリングしている。さすがにダガーはつかってないようだが、ジャイブではきちんとドライブターンしている。
それだけでも結構、驚いているというのにこの人は、キック・ジャンプまでやっていた。
うーむ。
四時を回ると、風がきつく感じられるようになってきた。
疲れもあるのだろうが、むしろ風が重くなったのだろう。気温が下ったためだ。風速も上ったようだった。いまいち乗り切れないこともあってセイリングがつまらなくなってきた。
波打ち際でセイルを手に佇んだ。もう店じまいしようかなぁ。
Sさんは風上のほうに立っていた――セイリングしてくるセイラーを見ていた。
おや、とぼくは思った。一時間ほど前にノーハンド・セイリングしていた人だ。そのうまさに、本栖湖ローカルの人じゃないようなのにな、と思っていたのだ。
岸まで突っこんできたその人はジャンプ・ジャイブした。
高さもあり、完全なジャンプ・ジャイブだった。着水した瞬間、セイルを離し、シバーの状態に。そのまま、ボードはプレーニングしたまま、テイルファーストで一瞬、走りつづける。セイルに風を入れてストップし、逆方向へ。
まるでスピンターンしたクルマが一瞬、うしろに走ったような感じだ。
だれだ。アマの動きじゃねー。
ひとつひとつの動きがシャープだ。
距離があるので顔ははっきりとわからない。でも鼻の下に髭をはやしているのはわかった。もしかしたら……。
その人はアウトに走る途中で両手を水面につけてノーハンド・セイリングを見せ、そして、バルカン!
完璧だ。
完全に空中でボードの向きが180度、かわり、セイルも持ちかえている。
ビーチにいた子供が叫んだ。
「バルカンだっ! すげぇ!」
――いや、バルカンがわかるあんたもすごいけど。
とにかく見せてくれる人だった。
インでさっきと同じテイルファーストで一瞬、走るジャンプ・ジャイブ。
そして、アウトではノーマルジャイブ。
あっ。
薄々、そうだろう、とは思っていた。そのジャイブで確信した。石原プロだ。Sさんのもっている「ウェイブの達人」というビデオで見た石原プロのジャイブと瓜ふたつだったのだ。
インでは時々、沈していたが、どうやらニュートリックをやろうとしていたらしい。
一度、成功したのを見ることができた。
両手を離して風上側に落としたセイルが水面につく寸前にぴたりと停止してふわりと手元に戻ってくるというトリック。
ビーチにあがった石原プロと(たぶん)ローカルの人たちが歓談しているのを遠目に見ながらぼくは片付けにはいった。時々、石原プロが演技をはじめないか、と湖に目をやる。
風がまた、上がった。
石原プロが出艇した。
周回道路からそれを見ていた。
いきなりアウトで平水面フォワードループをやった。うおっ。思わず、歓声をあげてしまった。ほとんど水面につかないループだった。それからつづけてアウトではフォワードループを披露してくれる。勢いまかせのフォワードループとはちがう、コントロールされていると感じさせるループだった。着水した衝撃で思わず、前に飛んでしまうほどの激しさもあわせもっていた。こうなるのは背中から着水しているわけではないということでもある。
見ているだけで気分がハッピーになってくる鮮かな演技だった。
むちゃんこかっこいい。
とにかくかっこいいのである。
そうだ。
あれをやらないかな。
まだ、やってないぞ。
――スポック。
石原プロができることは知っている。
雑誌で見たことがある。
やれっ、と念じた、まさにその瞬間、インサイドで石原プロがスポックをやってくれた。
眼福。
石原プロのこれらの演技を見れただけでも今日は本栖湖にきたかいがあったというものだ。
次のインサイドのジャイブではさらにわけのわからない動き――ジャイブの途中、ちょうどランニングぐらいの状態でいきなり、フォワードループをかけた。えっ、と思った。そんなところからどうしてジャンプにいけるんだ。さすがに回り切れず、背中から沈していたが――。
しかし。
すげぇ。
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Takehiro Yamada