
Sさんとマッチレース
2001 年 05 月 12 日(土)
本栖湖FANビーチ
晴れ
Sail:RX1 8.4(NEIL PRYDE) Board:DROPS 9'6"
本栖湖FANビーチ脇の道路沿いに停めたクルマの中で寝ていると、突然、スライドウィンドウが外から開かれた。
――なんやねん。
薄目をあけると、Sさんが満面に笑みを浮かべてのぞきこんでいた。ようやく本栖湖に到着したのだろう。
「おー」といいながらぼくは目を閉じた。
「もう少し寝させてくれぇ」
まだ、風は吹いていなかったのだ。
何度か、ぽっかりと水面に顔を出す亀のように目覚めては、ぼくは眠りに沈んだ。Sさんはセッティングをしているようだ――二時前に目が醒めたときに、ぼくはのろのろとクルマから抜け出した。
吹いていた。
ふらふらとSさんのところまで行って、文句をいった。
「吹いてんじゃんっ」
「えっ」
Sさんはけげんな顔をした。
「だから吹いてるといったじゃないか」
――何かそんなことをいわれた気もする。
本栖湖の湖面はブローに黒く染まっていた。
うーん。オーバー。
先週の経験からそんな予感がした。でも他に選択の余地はなく、ぼくはいつものスラローム・セットをセッティング。Sさんはフリーライド(6.0 のセイル付)とF2レーシング(7.8 のセイル付)を準備していた。なんでも来い、おらっ、という態勢だ。
Sさんはまず、フリーライドで出艇した。
アンダー?
ボードのボリュームが足りないという感じ。うまく走りだせないでいる。
ぼくはあいもかわらず、DROPS。オーバー気味だが、なんとか、乗れる。一発目のジャイブ――スタボーからの――が思いっ切り、決まってしまった。イメージとしてはロビー・ナッシュのボトムターンだ。あくまでイメージだが、スタボーのジャイブでこの感じははじめてだ。先週のジャイブのベストとはまたちがう。
セイルの返しでもたついてしまったが、ぼくがこう思ってしまったとしてもしかたがないだろう。
目覚めてしまったかな、と。しかし、結局、この一本だけだった。つまりただのまぐれ、というわけ。
水の冷たさにあいかわらずだった。
セイリングしているときにふと気づいた。今日はなんか静かだな、と。ジェットスキー軍団がいなかった。めずらしいこともあるもんだ。
Sさんはレーシングのセットに変えて乘っている。ちょっと目を離しているうちに本栖湖の最も風上まで上っていたのには驚いた。さすがレーシングである。その最風上の地点からSさんは一気に下りにはいった。迫力のあるライディングで岬のように湖に落ちこんできている山をかすめてさらにその先へ――そこでジャイブした。きれいに決まるのが、わかった。
ビーチで会ったときにそのことをいうと、Sさんは嬉しそうに破顔した。
「山田さんのおかげだよ」という。
何のことか、と思ったら御前崎でぼくが、アウトのジャイブができなくて――ジャイブの途中でTをふりかえったらできてしまった件のことだった。それを教訓にして、ふりかえるような動きをするようになったらジャイブができるようになったのだという。
たしかに去年までのSさんのジャイブはランニングの状態から、回りこまない、という感じだった。それをついにクリアできたらしい。
そのあと、Sさんとレース。
FANビーチの風下から最風上まで上って、再び、出艇した場所に戻ってくる、というコース。スタートの合図はぼくがした――ハンデをもらったのである。しかも風上からスタートさせてもらったのだからかなりひきょうかもしれない。
スタート直後は風はなかった。
ブローがはいっているところまでずりずりと移動。ブローをつかんでまず、ぼくがプレーニングした。ハンデ分、先行していたのだから当然の結果だ。1タックの半分ほど走ったところで後ろをふりかえると、Sさんはまだプレーニングしてなかった。
チャンス。
スタボーを限界まで延ばしてタック。
ちょうどSさんがポートで反対側にセイリングしているところだった。ぼくもポート・セイリング。予定ではかなりの差がつくはずだった。が、風が振れていたらしく、タックしたSさんとすれちがったときには、ぼくは風上に二メートルほどしか位置してなかった。
やばい。嫌な予感がした。
タックしてスタボー。前方にSさん。思ったより風上にいる。Sさん、タック。ほんらいならその風上側までぼくは行けるはずだ――なのにタックしたときには、ぼくはSさんがタックしたところから二メートルほど風下にいた。
逆転されてしまった。
ポートを延ばすSさん。そのうしろからぼくも続く。しかし、風向きがよくない――そのことに気づいたぼくは途中でタック。スタボーへ。そして、再び、タック。
それで立場が逆転した。ぼくのほうがSさんの風上にいた。
そのまま、ポートで仮想の上マークをジャイブしてぼくは下りへ。スタボーで上っているSさんのラインを横切る。ぼくは奇声を上げて威嚇した。Sさんは首をひねってぼくを見ると、顔をひきつらせて苦笑していた。
下れるところまで下る。途中、一度、スピンアウトした。原因はわかっている。チョップをこえるときに強く後ろ足の踵を踏みこんでしまったのだ。横滑りしていく。なんとかリカバーしようとしたが、なかなかグリップは回復しなかった。どうやら前のスケグよりも抜けづらいが、いったん抜けると、リカバーに手間取るようだ。
ジャイブしてポートに返した。
走り出す。
なんとか下らせるが、ハーネスが使えない。両手だけでセイルを支え、下っていく――が、そこは本栖湖FANビーチがもっとも混雑しているエリアだった。高速道路を横断しているようなものだ。切れ上がってくるボードと接触しそうになる。
「もうしわけないっ」
声をかけてゴールのビーチまでノーハーネスで突っ走った。
へろへろになる。
そのあとはフリーセイリング。
5時近くになってあたりが薄暗くなってきたのを期にSさんとぼくは上ることに――今日は本栖湖周辺に一泊するつもりだったので、あせらずあせらず、というわけだ。
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Takehiro Yamada