何回、うそっ、といったことか




2001 年 04 月 22 日(日)
三浦菊名海岸→津久井浜
Sail:RX1 8.4(NEIL PRYDE) Board:DROPS 9'6"



 風の音で目覚めた。
 反射的に携帯の時刻表示を見ると、九時をすこし回っている。
 だるい。まだ、眠りが足りない――横になったまま、風の音を聞いていた。予想以上に吹いているらしいのがわかった。行くしかないか……。不承不承、起き上がる。
 車検のために、下していたウィンドの道具をキャラバンに積み直したあと、Tに電話した――実は八時ぐらいに今日のウィンドをどうするのか、と彼から連絡があっていたのだ。九時ぐらいに連絡するから、と電話を切ったのだが、すっかり遅れてしまった。
「えー、今からじゃ行けないよー」とぼやくT。
 しかし、十分後には行くとの連絡が入る。
 いかんなぁ、家庭不和の原因になっちまったかな――と一瞬、思ったが、極力、そのことは考えないようにしておれは三浦に向かった。
 ま、独身者は気楽なものだ。


 北東の風、強し。
 三浦津久井浜ではすでにショートボードが走っていた。が、思ったほど吹いていない――あとでノビカメの情報をチェックしたところではちょうど風が落ちた時間帯だったらしい――それでもスラロームでは十分なぐらいの風だった。
 菊名海岸に到着。海を見ると、津久井浜の方から海面にグラデーションがかかっている。セイルをセッティングしているうちに、風はどんどん上がってくる。ウェイブボードでも十分、走るぐらいの風になったが、海岸線には釣り人が等間隔で並んでいる。暗礁と暗礁の間にずらりと。風上側にすこし出艇するぐらいのエリアがあるぐらいだ――これだとさすがにウェイブボードで出るわけにはいかない。スラロームで沖に出てそこでセイリングするしかなかったし、やはり風の状態は菊名海岸のインサイドはよくない。
 セッティングを終え、セイルとボードを担いで風上側に移動。出艇エリアにはウィンドの道具が置かれてある――なのにそこでは釣り人が投げ釣の準備をはじめていた。かんべんしてくれよ、とため息をつきながらこれだと、一本で沖まで出るしかないな――そう思って出艇したらうしろからいきなりどなりつけられた。
 ――どけっ!
 どうしてなんだ、釣り人がそこにある海を自分のものだと信じているのは。
 こっちはわざわざ邪魔にならないようにと、沖へ出ていこうとしているのに。何もわかっちゃいないのはなぜだ。
 考えているうちに腹が立ってきた。ビーチに戻って殴ってやろうか、と一瞬、考えたが、そこはぐっとおさえて、どなった釣り人を罵倒しながら沖ノ島のさらに沖へ向かう。
 だいたいウィンドの道具が置かれ、そこから出艇するというのが明白な場所で釣りをはじめてようとする神経が理解不能だ。


 定置網までラインをのばす。風は少し足りないぐらい。なんとかプレーニングしていたが。時々、津久井浜の方からおりてくるブローはそこそこきつい。ジャイブのたびに沈しながら津久井浜をめざして上っていく。スタボーで調子よく走っていると、いきなりうしろのフットストラップの捩子が抜けてしまった。おーっと、と左足を上げて、一瞬、電柱のそばのオス犬状態。
 ビーチにあがってまわりを見たが、プラスのドライバーを貸してくれそうな人影はなかった。しかたなく、自分の車まで往復して持ってきたドライバーで抜けた捩子を締めた。ところがいくら回しても回しても回してもくるくる回っていく。
 捩子が馬鹿になってしまっていた。
 がーん。
 海草を螺穴にいれて締めてみる。ためしにフットストラップをひっぱってみたが、だいじょうぶそうなので、海にでた。ドライバーはドライスーツの背中に入れておく。一往復でまた、ストラップがすっぽ抜けてしまった。
 今度はもう少しだいじょうぶそうなものを、と海岸に打ち上げられてゴミを調べた。ストローが落ちていた。それを二重に折ると、捩子の永久回転が止まる手応え。あんまりやると、また、馬鹿になるのでそのくらいにしておいて、セイリングしてみる。なんとかだいじょうぶそうだ。
 再び、津久井浜を目指す。
 風が落ちてきたこともあって一時間半もかかってしまった。津久井浜に上陸したときにはプレーニングしないほどだった。けっこうな数のセイラーが出艇していたが、プレーニングしているのは野比の方のビッグセイル軍団ぐらいだ。津久井浜の方はヘリコプタータックなどのフリースタイルをやっている人間が多勢をしめていた。


 午後二時をまわった。
 おれはフットストラップに仕込んできた小銭――八百円で昼飯を買って食い、ぼんやりと海を見ていた。こりゃ、今日の風もおしまいかな。やはり三浦は午前中だな、と考えながら一路、菊名海岸を目指した。ノンプレーニングで風下へと下っていく。
 途中、小舟がエンジンの音をうならせて走ってきた。漁師だ。ちょうどクロスするタイミングだったのでセイルを落とし、ストップする。小舟は目の前を通過していった。網を船尾から落としながら。
 うっそーっ。
 前に進めなくなってしまった――と思っていると静かに網は海中に沈んでいった。


 あと一本で菊名海岸に戻れるというところでTとすれちがった。彼は 8.4 の RX1 にDROPS の FL11 だ。
 遊ぼーよー、と誘われたが、風がなさすぎてついていけない。おれは帰路につくことに。TはN沼さんがきているといっていたが、海岸には見当たらなかった。ついでにTの車の見当たらない。あれ、と思っていたら新品の1BOXカーが駐車しているのが目にはいった。んー、ナンバーはTの住んでいるところだ。
 おれは自分の車にもたれかかってジャワティを飲んだ。
 津久井浜で買ったジャワティだ。セイルのスリーブにいれておいたのである。
 ウィンドの道具を片付けるのがめんどうだな、と考えていた。ふと見ると津久井浜の方の海面が黒くなっている。風だ。Tらしいセイルがプレーニングして上っていっている。
 なんとかおれのセットでも乗れるぐらいの風はある――乗るしかないかなぁ、とちょっと憂鬱に考えてセイルのセッティングをチェックしてみる。よくよく見たらブームの長さがおかしい。二センチ、長い。それを補正して海へ。
 みるみるうちに風が上がってきた。白波も見える。さっきまでオンにふれていた風がオフぎみになっている。再び、津久井浜を目指す――目標は三十分。どんなコンディションでも菊名津久井浜間は三十分でクリアしないとレースではゴールも覚つかないという気がする。
 オーバーセイルだ。
 去年のEastスラローム第四戦ほどではないにしろ。
 スタボーのハーネスが合ってない。ちくしょう。
 コース半ばで沈。ウォーターに手間取る。風下右手の方でタックするセイルが見えた。上ってくる。おれの方にまっすぐに。凄まじい上り角度だ。てっきりロングボードだと思った。きっとN沼さんだろう、とも。近づいてくるにしたがって確信した。セイリングフォームに見覚えがある。
 おれから二メートルほど風下を通過した。やはりN沼さんだった。しかし、ボードはAHDのコーススラローム。目が点になる。
 すぐにウォーターし、N沼さんを追尾してみた。
 いくら風がオフにふれているとはいえ、異様な上り角度だった。とてもじゃないが、同じ角度でついていけない。ギリギリとN沼さんは上っていく。ボードは海面にほとんど、はりついているようだ。がっちり引きこまれているブームも動かない。強烈なブローがはいってもボードとセイルとセイラーの位置関係は微動だしなかった。
 ただ、セイルに横皺がぐわっとはいるだけだ。
 見てはいけないものを見てしまったような気分になる。
 自分の角度でついていこうとしたが、だめ。ボードスピードも向こうが上だ。おれが方向転換しているうちにその姿は見えなくなってしまった。
 N沼さんについていこうとしたおかげで一気に上れたらしく、津久井浜が真正面に見えた。岸に上がる――ダウンをもうすこし引こうと考えたのだ。
 引いた瞬間、バツンとダウンホールラインが切れてしまった。
 ころん、とうしろに転がりながらうそっ、とつぶやいていた。今日は何回、うそっ、とつぶやいたことか。
 呆然となる。
 切れ端でなんとか、ダウンのテンションをかける。十分ではなかったが、あとは下りだけだ。なんとかなるだろう。いざとなったら途中の岸に道具を置いて歩いて菊名まで帰るしかない。
 腹をくくって帰路につく。
 結局、菊名津久井浜間は四十分、かかっていた。


 帰路はかなり悲惨だった。
 風は少し落ちたと思えたけれど、オーバーセイルにはかわりなかった。ダウンのテンションが十分ではなかったということもあるのかもしれないけれども、それ以前に技術不足だ。かなりセイルをひらいているのにフルプレーニングしてしまう。しかもスケグを 48 センチにしてフルプレーニングでの下りははじめてだった。スケグに発生した揚力でボードがめくれあがるのを経験。ショートボードでははじめてかもしれない。
 ポートではハーネスをかけれず、暴走してしまう。上らないようにすることで精一杯だった。握力がなくなるまで走って沈――をくりかえす。
 スタボーはなんとかハーネスをかけてセイリングできた。ボードは何度となく、めくれあがったが、激沈だけはまぬがれる。


 帰路半ばでN沼さんが一気に上から下っていって、あっさりとおれを抜いていってしまった。


 さすがにいったん菊名海岸まで戻るとまた、海にでる根性はおれにはなかった。


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Takehiro Yamada