風邪




2001 年 03 月 18 日(日)
御前崎菊川河口
Sail:COMBAT WAVE 4.2(NEIL PRYDE) Board:WAVE265(MISTRAL)



 一週間、風邪をひいて体調が悪かった。
 なので土曜の夜に御前崎へ行くことになったときは内心、思っていた。――まじっすか?
 いや、つらいなら断われば、よいのである。でもぼくは考えていたわけだ。運動すれば、この風邪も直るのではないか、と。まったく馬鹿である。
 菊川に到着したときにはちょうど雨が上がったばかりだった。前線が通り過ぎた直後だったらしい。駐車場の路面が濡れていた。
 風は――あった。ちょうど吹きはじめという感じだった。木々が揺れているが、風速計がわりのプールに水面には風は当たっていない――これは風向きのせいだったらしく、海には十分な風が入っていた。いつもよりもオンショアに振れている。波もそこそこ――腰肩ぐらい? よく覚えていないのは張るセイルのサイズを非常に迷っていたせいだ。
 風邪で体調、悪いしなぁ、と考えていた。
 ブローは砂が飛ぶほど、あるのだが、落ちるときはほんとうになくなってしまう。ブローだけ見ていると、4.2 という感じなのだが。
 TとSさんがセイルを張るのを見ながら駐車場と海の間を何度も往復した。
 往復するたびに風が上がっていくのがよくわかる。砂も飛ぶ飛ぶ煙のようにたなびく―― 4.2 に決定。ため息がでる――ボードのボリュームとのバランスなのか、どうも 4.2 はしっくりこないのだ。というよりそもそも 4.2 をつかうようなコンディションで 265 の板をつかうことにもともと無理があるような気もする。
 風向きもサイドに振れた。
 Tがぼやいた。
「 3. 台のセイルが欲しいよー」
 ぼくもTも最小セイルは 4.2 。Sさんだけが 3.7 のセイルを持っている。
 セッティングを終え、ビーチに立つ。
 とても憂鬱な気分。
 ゲッティングアウト。
 日焼け止めクリームのせいで右手が滑る――波を越えてアウトに出た。いきなりオーバーだ。うねりをこえるたび、バランスを崩してふっ飛ばされないようにするので精一杯だ。ジャンプなんてものが世の中に存在することは一時的に忘れることにした。ジャイブは失敗。
 ウォータースタート。ポートで走り出すと、ボードのボトムに裏風が入ってボードがめくりあげられる。それを無理矢理、抑えつけて走る。なんとか出た場所に戻れそうだった。インサイドでちょうど出会ったスープにボードを合わせてみた。
 思った以上にパワーがある。
 ノーズをボトム方向に向けたとき、リグのクリューがスープに喰われた。セイルが両手からもぎとられて持っていかれる。その反動でぼくはうしろへ――次の瞬間、波に巻かれていた。
 ――やばい!
 リグから手を離してしまっている。
 波にもみくちゃにされ、ようやくぽっかりと水面にでたときにはボードとセイルは近くにはなかった。見える範囲にもない――前の崩れる波の向こうだ、と勝手に判断してそちらへ泳いだ。全然、進まない。うしろからくる波に海中におさえつけられる――ボディサーフィンをして、と思ったが、そんなことできやしない。
 とにかく無事、岸に戻ろう、と判断を変更した。道具のことはあとだ。なにしろビーチも見えないのだ。
 何度か、波にもて遊ばれたとき、前方にボードとセイルが流されているのが見えた。
 少しずつだが、波にどつかれるたびに近づいていくのがわかる。泳ぐ。アウトに出ていくセイラーが近くを通っていった。どうにかボードに手が届いた。フットストラップをつかみ、リグのトップのほうを手にして空をふりあおいだ。
 青い空だ。
「あー」とわけのわからない声を上げる。
 ビーチまでまだ少し距離があったのでウォーターしようとしたが、二度ほど前にオーバーセイルで引き倒される。三度目でウォーターを成功させて無事、ビーチに帰還した。菊川のレストハウス前だった。ずいぶんと流されてしまったものだ。波に巻かれたのは排水口より少し風上側だったはずなのだが――。
 あたりを見回すと、排水口の上に立つTの姿があった。
 そちらへ向い、排水口の上で、「Sさんは?」とたずねるとちょうど排水口の風上側からSさんが出艇するところだった。
 Sさんは三つほど波をこえたところでバランスを崩して沈。
 ウォーターをしようともがいているのはわかったが、Sさんのいるあたりはちょうど波がどっこんどっこんブレイクしていた。見ている間に排水口の前を通過してさらに風下側に流されてしまう。
「おれとまったくおんなじだぁ」とT。
 ようやくウォータースタートしたSさんはそのまま、加速してビーチに突っ込んだ。いや、これはいいちがいじゃない。本当にSさんはビーチに突っ込んだのである。ビーチ際まできたのに全然、減速しなかった。
「やばい!」とぼくが叫んだ瞬間、Sさんはスケグをひっかけて前に飛んだ。
 見事なフォームだった。
 ハードルなんかないのにハードルを飛びこえるフォームのまま、延ばした足から砂地に着地した。
 あわててSさんのところに行ったのに怪我もなく、けっこう元気だったには驚いた。それでも左足はやはり少し痛めたらしい――よくそのくらいで済んだものだ、という状態だったとぼくは思うのだが。熊川哲也でもやらんぞ、あんな真似。
「オーバーだ」
「オーバーだな」
「オーバーにちがいない」
 と、三人でしばらく嘆息しあう。
 Tが出艇し、つづいてSさん。ぼくはさすがに体調悪いなぁ、とビーチに佇んだ。
 ふたりはいきなりビーチスタートに失敗してビーチブレイクに翻弄されながら流されてしまった。Tはすぐにビーチに復帰したが、Sさんはぼくが置いてきた道具のあたりまで流される。
 ビーチに上がってきたSさんのフォルムがどこかおかしかった。
 マストが折れていた。


 午後、S田さんとS川さんがやってくる。
 さすがにふたりはウェイバーなだけあってうまい。ぼくたち三人のようにウェイブ初心者とはちがう安定した動きだった。
 昼飯もくって二時。
 一時間だけでもと気合いをいれる。さいわい少しだけ風は落ちていた。
 ゲッティングアウト。沖で沈してインへ。排水口のちょい風下のあたりに戻ってくる。波、波……ときょろきょろ。風下後方に波。スピードを落としてそれを目標にしようか、と一瞬、考えたが、風上ちょい後方に波がきていた。崩れてきている――ボードをデッドゾーン近くまで風上に向け、スープの手前でベア。波のパワーを感じつつ、さらにスープの中から立ち上がる波に向かってノーズを振った。バックサイド。波のサイズは腰と肩の間ぐらいか――。
 波のトップで板を返した――というか、ほとんどウンチングスタイルでセイルに風をいれてベアさせたという感じ。波を滑り下りる。その途中でフロントへ。
 おわっ。セイルが曇っていて前がよく見えない。
 だれも前にいないでくれ、と祈りつつ、ターンして(ほんとうにターンしたのか?)板を切り返した。これは気持ちよく回ってくれた――しかし、波のボトムでやったトップターンというのもなぁ……。やはりこれはボトムターンと呼ぶべきだろうか?
 ビーチに上がるとまた、風が上がってきた。
 はー。
 それからは見物人と化す。
 バックループ、フォワードループ、バルカンといろんな技を見る。インサイド・フォワードループにはさすがに驚いた――Tには何をやったのか、わからなかったらしい。インサイド・フォワードだよ、と教えてやると、非常に驚いていた。そんなことできるのか、と。
 それにしてもNGを使っている人間が多い。男女問わずにである。大人気だ。
 波は排水口前がだめになり、菊川の河口のあたりがよくなりはじめる――波のサイズも落ちた。
 いきなりSさんがゲッティングアウトのコツをつかんだらしい。動きがかわる。スピードがのるようになった。しかし、惜しいところでスープ越えで失敗してしまう。もったいない――おそらくキックジャンプができるようになれば、クリアできることなのだが。
 三時半にぼくは上がる。
 あー、気分が悪い。
 やはり運動したからといって風邪は直らないのであった。


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Takehiro Yamada