Sさんの災難と最高の一日




2001 年 02 月 10 日
御前崎菊川河口
晴れ
Sail:NR 4.7(NEIL PRYDE) Board:WAVE265(MISTRAL)



 あきもせず、今週も御前崎菊川。
 今回の道連れはSさん。Tは仕事がらみでこれない。どうもこの三人――いっしょに御前崎に行けない運命らしい。
 八時半ぐらいに駐車場に到着したあと、ぼくは仮眠の準備。Sさんはちょっと仕事の連絡をとる。少しSさんの顔がきびしくなった。トラブルらしい。
 ぼくが一時間ほど眠っていた間もずっとトラブルの対応連絡に追われていたらしく、目を醒ましたときにも携帯で電話をしていた。なんでー、といいながらもSさんは仕事をつづける。コンビニにいって電池を補充し、電話電話電話。不幸なことに御前崎菊川の近くでピッチがはいる場所がない。ピッチは会社支給のものだが、携帯電話はSさんの個人のものである。
 電話代がーっ、といいながらもSさんはトラブル対応。
 たいへんである。
 それにしてもSさんの仕事姿ははじめて見た。
 もうしわけないことだけれども、ぼくにはまったく関係のないことだったので、ぼくはウィンドの準備をはじめる。
 海をチェック。吹いている。さすがである、御前崎。
 セイルは 4.7 ――ちょっとたりないかもしれない。
 ボードをのんびりとビーチにもっていく。セイルをセッティングしてこれもビーチへ。ボードとジョイント。
 他のセイラーものんびりとセッティングしているように見える。湘南などでは吹くと目を吊り上げてセッティングしているものなのだが――風がある。そのことが心に余裕をもたらすものらしい。
 車に戻るとようやくトラブルが収束したのか、Sさんが車の中からあらわれた。ぼくの車に積みこんだ道具をひっぱりだす。
「あっ」
 Sさんの顔がひきつった。
「マスト、忘れた」
 あまりのことに思わず、笑ってしまった。
 あいにくとぼくの持ってきているもう一本のマストは 490 である。
 Sさん、イワモトに電話をしてマストの在庫をたずねる。スキニーマストの在庫があった――そう最近、はやりのスキニーマストである。
 ぼくはイワモトのホームページをチェックして知っていた。イワモトにはスキニーマストが一本だけ在庫があることを。マストを折ったら買おう、とぼくは考えていたのだ。それまで売れないといいな、と思っていたらSさんに先をこされてしまった。
 あれっ?
 そんな気分だ。
 無事、スキニーマストを手にいれたSさんは 4.2 のコンバットウェイブをセッティング。イワモトから戻ってきて海をチェックしなおすとどうも風が上がってきていたのだ。
 通常のマストと張りくらべていないのでわからないが、どうもスキニーマストのほうが柔らかいような気がする。
 正午をまわってしまった。
 ぼくは海へ。
 風はすこしオンぎみ。4.7 でジャストだった。波のサイズは膝からすねという感じ。先週よりあきらかに小さい。おかげでゲッティングアウトは楽だった。
 アウトにでてジャイブに失敗してインへ戻る。先週より寒くないし、身体も動いた。バックサイドで一生懸命、スープにあてこむ。おもしろい。おもしろいようにスープにあてて板を返せるじゃないか――今にして思うに、どうもこれは風向きがオンにふれていたおかげだったようだ。
 おもしろくて楽しくて細かくビーチで休みながらも乗りつづける。
 一度、頭ぐらいの波にバックサイドで駆けのぼり、トップで板を返し、スープとともに一気にボトムにおりていった。今までになく、一番長く速い落下。凄まじいほどの充実感。はじめてだ。こんな気分。ビーチぎわでくるぶしの波に一発、あてて海からあがる。片手にセイル、片手にボードをもって。
「わーっ」
 どうしようもなく声がでた。
 無色透明の高電圧の情動。声をだしているうちにそれに色がついた。
 笑いになる。
「わはっ、わははははーっ」
 大笑いしながらぼくはセイルとボードをビーチにおいて海をふりかえった。
 最高!
 二時半ぐらいにSさんと駐車場にもどって一休み。
 後半戦は風が上った。
 ときおりフロントにふってみたりしたが、今日はちっともうまくいかない。セイルを開いて内傾をきつくしすぎていた。クリューを海面につけて沈してしまう。どうも回さなければ、という気持ちが強すぎたようだ。
 アウトにでるとき、切り立ったフェイスでジャンプした。すぱんと舞い上がる。青空。そこに赤いボードのノーズしか見えない。わっはーっ。テイルから海面に降りて沈せずにそのまま、走りだす……。
 今日はめずらしくずいぶん調子がよかった。
 なにしろバックサイドで波にあてこんでテイルを蹴りこむことが、できるようになったのだ。突然である。いつもまにか気づくとできるようになっていた。もちろん傍から見ると全然、たいしたことはないのだろうが、今までは板を返すだけだったのだからずいぶんな進歩だ。うれしい。
 三時半に排水口の風上側まで上ってビーチにあがる。風があがってきたこともあるし、一泊してあしたも御前崎だ。このくらいで勘弁してやろう。いや、このセリフは自分に向かっていっているんだけどね。
 非常にいい気分でぼくは海から上がる。
 Sさんにはもうしわけないが、今日はぼくにとって最高の一日だった。
 ふぅ。


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Takehiro Yamada