
暴風海
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海にはもうだれもいない。
和也はキャリアベルトに最後の一引きを加えると海を振り返った。強風が髪を巻き上げる。駐車場ごしに見える海は夕陽の鈍い光の中、灰色に染まっていた。波がうねり、崩れ、白い泡の塊になってビーチを侵食している。
潮が風に乗って和也の所まで届いていた。
顔が潮に粘った。
和也はルーフキャリアに積み上げられたウィンドサーフィンを押して固定具合を確かめてから赤錆びの浮いた運転席のドアを開いた。
助手席には修平が坐っていた。
互いに顔を見合わせてへらへらと笑う。
「さあて帰るか」
そういって和也はダンガリーシャツのポケットから鍵束を取り出した。取り出された鍵束は指の間を滑り落ちた。
「はは。見ろよ、修平」
和也は右手を広げて見せた。指先が痙攣していた。
「手に力が入らねぇ」
修平が無表情に自分の左手を広げた。同じように痙攣していた。にやりと笑った。
二人は爆笑した。
やがて修平がいった。
「明日までこの風、残るかな」
「無理だろう。台風の影響は今夜いっぱいといったところだな」
「ちくしょう。ひさびさの強風だぜ」
和也はよいしょと鍵束を拾い上げた。
「じゃ、台風を追いかけて北上するというのはどうだ」
「あ」といって修平は和也を見た。
「それはいい。タイフーンキャラバンってわけだ。高速を使えば、二日はウィンド三昧だぜ」
「台風が低気圧になってもウィンドできるだろうから三日はいける」
「いい……それは……いい……」
うなずく修平の顔がふいにうなだれた。
「修平……?」
軽い寝息がそれに答えた。
和也は肩をすくめるとフロントウィンドウの向こう側を見た。
駐車場は山を切り開いて造られている。暴風に身もだえ、ざわめき、揺れる木々。視線をサイドウィンドウに返すと海。潮に曇ったガラスごしに闇。砕ける波だけが白く浮かび上がって見えた。
修平の寝息がいびきに変わった。
和也は微笑み、自分の右手を見た。掌の皮が剥け、ふやけた指先が震えていた。
ルーフのウィンドサーフィンを掠めていく風が甲高い悲鳴を上げ、暴風に車が揺れている。
和也はシートを倒すとゆっくりと目を閉じた。
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Takehiro Yamada