馬券を復活することにした
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2006/10/03up
馬券を復活することにした。
ふたたび、馬券まみれの日々に戻っていこうというのだ。阿呆だな、と自分でも思うのだが、どうしようもない。それでも以前ほど、まみれることはないだろう――無職になってまでやるつもりはないからだ。そのあたりは中途半端に保守的なってしまった。
馬券の日々からほぼ五年がたったのだが、今までまったく馬券を買わなかったわけじゃなく、むしろ、毎年のように復活しようと競馬場に通っていたのだが、その度に負けてはあわてて今の自分の生活に舞い戻ってきていた。それが今回はうまくいったから――というわけではなく、本格的に復活しようと考えたのにはいくつかきっかけがあるのだけれどひとつには株に手を出したということがある。
別に株でぼろくそに負けたからやはり競馬しか、おれにはないんだ、というわけではない。
株式投資で分散投資ということを知ったからだ。
株ではひとつの銘柄だけを保有すると、その銘柄次第になってしまうが、複数の銘柄をポートフォリオに組み入れることによって銘柄単体のリスクを分散してしまうことができる。たとえば、日経平均と同じ銘柄をその時価総額と同じ割合で購入すれば、そのポートフォリオ全体の動きは日経平均と同じになる。現在のインデックスファンドやETFがそうだが、長期的には基本的に日経平均は上昇すると考えられるので、個別銘柄のリスクを排除してリターンを得ることができると考えられる。
では馬券を分散するというのはどういうことか。
ひとつには買い目を一点ではなく、複数、買うことが考えられる。
問題は株式とはちがい、馬券の場合は全通りの買い目を購入してみたところでトータルとしては負けてしまうということだ。毎回確実に馬券はとれるが、収支はマイナスになる。単勝馬券ならそれはおそらく80%に収束する。
それにこのやり方に近いことはすでに試していて去年は馬連を広めに買って的中率50%を切るくらいまでなんとかできたが、的中したときの払戻しが二倍という設定での買い目だった。的中率が50%を少し切っている、その少しの分だけ負けていってしまう。
払戻し三倍という設定ではおそらく50%弱という的中率は維持できないだろう。
だいたい、馬券で勝てる買い方はあるのか。
それが根本的な問題なのだが。
実はある――あると思っている。あると信じている。
ぼくは五年前の馬券まみれのときの自分の馬券の購入記録を調べてみたことがあるのだが、それまで買った馬券を均等買いで購入していたら、複勝馬券だけなら回収率が100%をこえていたことがわかった。ほんのわずかだったが。それを知ったときの気分の悪さを想像してみて欲しい。馬券が破綻してしまい、にっちもさっちもいかなくなったときに、実は複勝馬券だけ買っていれば、勝っていた。少なくともイーブンだった、ということが判明したのだ。しかもだ、単勝馬券の方もある条件をつければ、浮いていたのだ。
だからこそ、ぼくは馬券をあきらめ切れないでいるのだが。
当たり前の話だが、五年前から今までの間にも何度も上記の浮いた買い方で馬券に再チャレンジしていたのだが、毎回、その度に破綻していた。今年も九月に中山競馬場へ行き、ぼろ負けし、だめだ、やはりだめだ、と嘆息していたのだった。
にもかかわらず、復活しようと決意したのは、つい数日前に読んだペリー・メーリングの「金融工学者フィッシャー・ブラック」の影響だ。その中の一部分というよりは全体から受けた影響なのだが、象徴的には次のようなフィッシャー・ブラックの言葉に集約される。ギャンブルに負けた人はその負けを一気に取り戻そうとして賭け金を増やす、と。正確ではないが、引用の大意はそういうことだった。
その言葉をネガティブにとらえれば、いいのか、ポジティブに解釈すれば、いいのかは引用からは想像できなかった。
が、それがふいにわかる瞬間があった。おそらくフィッシャー・ブラックは――引用された前後の文章がないので誤解しているだけなのかもしれないが――リスクについて語っているのだ、と気づいた。経済学にとってリスクというのはボラティリティのことである。少くともフィッシャー・ブラックにとってはそうだった。
株価の変動する大きさである。
変動する大きさがリスクの大きさなのだ。株がどうしてリスクのあるものなのか。それは変動する幅が債権や、ゴールドなどに比べて大きいからだ。そして、大きいからこそ、リターンも大きくなる。ハイリスク・ハイリターンというわけだ。
分散投資というのは個別銘柄のボラティリティの大きさを相殺し、全体として減少させる働きがある。
つまりリスクを減らせるのだ。
負けを取り戻すために、賭け金を増やすのはリスクを増やすことに他ならない。
フィッシャー・ブラックはそういっているのだ、ということに気づいた瞬間、どうして自分が例年、破綻していたのか、了解できた。賭け金を上げていたからだった。なるべく早く負けを取り戻すことばかりを考えていた。トータルで結局、浮くのなら賭け金を大きくした方がいい――そう考えていたのだ。
あらためて自分の馬券の記録を見返してみると、一日の回収率は500%以上のものが散見され、0%が――ひとつも的中しなかった日が25%ほどある。これはどういうことか、というと、かなり連敗することがあるということだ。つまりボラティリティが大きい。当然、賭け金が大きいと、連敗に耐え切れず、破綻してしまう。
そういう状況ではどうしたらいいのか。ボラティリティ自体を小さくできない。
方法はひとつ。賭け金を下げること。
そうなのだ。時間軸で分散してやれば、破綻する確率は小さくなるはずだ。
破綻さえしなければ、トータルでは浮く可能性がある。
過去のデータからはそうなる。過去のデータがたまたま浮いていただけでなければの話だが。
試してみる価値はある。
というわけで馬券を復活することにした。
――さてどうなることやら。
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Takehiro Yamada