パソコンつれづれ




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 ひたすら男がワープロ(パソコン?)に向かって文字を打ちこんでいる。
 カメラがそれに近づき、ディスプレイをアップにする――そこには同じ文言がくりかえされていた。「沙少妙子〜最後の事件〜」のワンシーン。そのシーンを見た瞬間、思わず、苦笑してしまった。
 このシーンは男の狂気――不気味さを表現している。それは了解だ。たとえそれがキューブリックの「シャイニング」から換骨奪胎したシーンだったとしても。「シャイニング」ではぞくりとしたシーンがなぜ、苦笑してしまったのか?
 ワープロだったからだ。
 ディスプレイにずらずらと並んだくりかえされる文字を見た瞬間、こう思ってしまったのだ。あー、この人、カット&ペーストしたんだなぁ、と。ふりだけの狂気か、とも。そして、このシーンを用意した裏方さんは「シャイニング」にくらべたら楽だったなぁ、と。「シャイニング」はタイプライターだったからだ。
 みんな、そう思うよね、と思っていたのだが、そうでもないらしかった。
 というのもカット&ペーストのことをみんなはけっこう知らなかったのだ。
 そっちの方がカルチャーショックに近い驚きだった。


 どうしても自分の知っている当然のことはみんなもそうだと思ってしまうのだが、これほど驚いたのもめずらしい。というのもそのみんな、というのは基本的にワープロやパソコンを使って文章を書いていたからだ。
 そこでぼくはおそるおそるたずねたものだ。
「置換機能って知ってます?」
「痴漢?」
 ギャグなのかと思ったが、そうではなかった。
 いろいろと聞き出してみてワープロやエディタの基本的な機能はまったく使ってないことが判明した。つまり、検索、置換、カット&ペースト、行ジャンプ……。


 そのとき、さらにこういわれて頭を抱えてしまった。
 ワープロを使うのはパソコンよりもかな漢字変換が優秀だから、と。
 そうではなく、事実はむしろ逆だということを結局、最後まで納得してもらえなかった。


 1999年ごろにもこういうことがあった。
 ある小説家のホームページでHP200LXというパームトップパソコンが2000年問題で動かなくなるから、と書いていてひっくり返ったことがある。さも当然のように2000年以前のパソコンは2000年問題で動かないといわんばりの調子だった。
 そんなの試してみれば、いいじゃん、というのが、起き上がってからのぼくの感想だった。内蔵時計をすすめて2000年にしてみれば、いいのに、と。
 自分の所有していたHP200LXで試してみたが、動かなくなる、ということはなかったし、別に問題はなかった。アポイントメントの表示が2000年で「00」になるぐらいだった――二桁表示だったから。


 たとえば、電子錠で閉ざされているドアにパソコンを接続して総当たりでパスワードを試してみて鍵を開くシーンが映画などでよくある。パソコンのディスプレイをすごい勢いで数字が流れていって、ある組み合わせだけ残る。
 どうもその方法は万能に思えるらしく――もちろん可能なシチュエーションもあるだろうが――、いろんなマンガや小説で再利用されている。
 あるマンガで(けっこう売れていたマンガ)悪者の家に侵入してパソコンの中身を見るために女子高校生が自分のノートブックパソコンと接続してパスワードの総当たりをやるのだ。
 ひっくり返ってしまった。
 女子高校生がやったからではない。
 パソコンの中身を見るだけ――つまりハードディスクの中身を見るということだ――ならパソコンをばらしてハードディスクを他のパソコンに接続してやれば、いいし、インテルマシンなら、MS-DOSのブートフロッピィで立ち上げ直せば、いいからだ。
 だいたい、どうやってパソコン同士を接続したのよ?
 OSは何なのよ?
 まったく別の作者の作品だけど、フロッピィディスクを読もうとすると、パスワードを入力する画面がでるのはどういうわけよ?


 別に現実にそってなければ、いけないとも思わないし、嘘はいけないとも思わないのだが――最近はかなり寛大になっている――、あまりにも無知すぎるシーンには唖然とするばかりだ。しかもそういうものが売れてたり(つまり唖然とする人は少数派なのだ)、そういうのに限って綿密な調査の末だとか、いわれていたりする。ちょっと考えれば、フロッピィを読もうとするだけでパスワードの入力画面がでるなんで変だとわかると思うんだけど。


 でもこれはパソコンに限ったことではなく、ドアや手錠を針金一本で開けてしまうシーンを見てひっくり返っている鍵屋さんが日本中にたくさんいるのだろうとは思う。



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Takehiro Yamada