
パドックのかたわらで
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大井競馬場のトゥインクルレースでは会社帰りの人間が多い。
女連れでやってくる若いサラリーマンなんかがけっこういてパドックに立っていると、その連中が語る。どうでもいいが、的場直之のことを的場文男の息子だ、というのはやめてくれ。まちがっているぞ。親戚であるのはたしかだが。したり顔の口調で、連れのOLに語らないでくれ。
気になる。
石崎だと思って買ったらちがう石崎だったよー、とか。
それはあれか?
石崎隆之ではなくて石崎駿だったいうこということか?
まさに駿は隆之の息子だぞ。
お願いだ。パドックに集中させてくれ。
はじめてパドックで馬を見るらしいOLがよくいうセリフがある。
「どういう馬がいいの?」
それがすなおな疑問だというのはわかる。
競馬場に連れてきてくれた若い男にたよって聞くのもわかる。
でもな、考えてごらん。
いい馬(つまり勝つ馬)が簡単にわかるなら競馬は博打として成立しないのだよ。
パドックで馬が周回しているときに前のレースのリザルトが発表される。
荒れたレースだった。馬連で万馬券、馬単で十万馬券――突然、目の前の二十代の男が歓声を上げた。百万だっ、とわめいて携帯に電話かけて彼女だかに大声で報告している。いっしょに来ている人間にすごいだろ、と同調を求め、自分が教えた買い目を買わなかった仲間を馬鹿、とくりかえしてなじっている。
どうでもいいが、刺されるぞ、おまえ。
なんならおれが刺してもいい。
パドックの段差で馬券おやじが足を踏みはずしてすっ転んだ。
ぼさぼさの白髪頭。ナッパ服。顔色はあまりよくない――おやじは叫んだ。
「何しやがんだっ!」
立ち上がり、あたりを睨め回す。
「足、引っかけやがったのはどこのどいつだあっ!」
いや、おっちゃん、自分で転んでたよ。
最終レースにもなると、ボロボロになった人間もでてくる。
しゃがみこんで競馬新聞を抱えてマークシートを一生懸命塗り潰しているのは別にかまわないさ。でもね、ねーちゃん、パンツ丸見えだよ。思わず、前を往復してしまったじゃないか。
鉄火場では日常生活一年分の喜怒哀楽がむきだしで消費されている。
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Takehiro Yamada