ステーキハウス
(c) Copyright 2002 Takehiro Yamada . All rights reserved.
何をたのもうか、ちょっと迷った。
残業もして疲れていた。結局、いつものステーキセットをたのことにした――五百円で、御飯の大盛りもできる。
小田急相模原のステーキハウスだ。
最近――値段も手頃なのでちょくちょく来るようになっていた店だった。店自体のキャパシティはそれほど大きくはない。狭いボックス席が三つに、カウンターという構成だ。カウンターのすぐ向こう側は厨房になっている。
おれはカウンターに腰かけて注文したものがくるのを待っていた。
客は他に二名ほど。厨房ではバイトの女の子とやとわれ店長とおぼしき初老の親父が働いている。厨房のがガスレンジにかけられた鉄板でステーキが焼かれる。油がはじける音が聞こえる。鉄板を木製の皿にのせて客に出すようになっている。
おれがくる前からいる客にステーキがだされた。
次に焼かれてているのが、おれの注文したものだろう。
腹は減っていた。
親父がレンジの鉄板を持ち上げようとした。瞬間。音を立ててそれをひっくりかえした。レンジのまわりに肉がおちた。さいわい床には落ちなかったようだ。
――あーあ。焼き直しか。
おれは厨房から目をそらしてぼんやりと壁のポスターを眺めた。
腹、減ったな、と。
視線を厨房に戻すと、親父がレンジのまわりの肉を鉄板に拾いあつめていた。ゴミ箱に捨てるんだろうなぁ、と思っていたらそのまま、おれの前にでてきた。その瞬間、バイトの女の子が驚愕の表情を浮かべるのが見えた。
しばらくおれはその肉を見つめた。
ステーキにつづいて大盛りのライスもおれの前に置かれる。
視界が暗くなるのがわかった。視野狭窄。厨房を見た。バイトの女の子はおれに背を向けて皿洗いに精をだしている。
親父は忙しそうだ。
狭い厨房の中を右へ左へと動きまわっている。
しかし、けしておれと目を合わせようとはしない。
おれは立ち上がった。
レジへ行く。
バイトの女の子も、親父も寄ってこなかった。
すいません、と声をかけた。
それでもふたりともレジにこない。背中を向けている。
おれは五百円玉をパチリとレジのテーブルに置くと、店の外にでた。
Return To HomePage | Return To List Page
Takehiro Yamada